「書けない」悩みを抱えるあなたに贈る執筆論
2021年刊行。筆者は以下の四人。
- 千葉雅也(ちばまさや):哲学者・小説家。立命館大学大学院教授
- 山内朋樹(やまうちともき):美学者、庭師。京都教育大学准教授
- 読書猿(どくしょざる):読書家、作家
- 瀬下翔太(せしもしょうた):編集者、ディレクター
もともとは2018年に行われた座談会その1「挫折と苦しみの執筆論」があり、これをもとに、各人の気づきが書かれ、更にそれを踏まえて、座談会その2「快方と解放への執筆論」が2021年に実施された。本書はこの流れをまとめたものである。
この本で得られること
- 書くことはもっと気楽に取り組んで良いのだとわかる
- 「書けない病」克服のきっかけがつかめる
- アウトライナーが便利なのかも?と気づける
内容はこんな感じ
書き始めた瞬間挫折する。集中が長く続かない。何を書いていいかわからない。自分の文章がダメに思えて仕方がない。書くことについての悩みは尽きない。本書では書くことを生業としている四人の作家が集い、それぞれの課題、悩みを吐露。どうすれば書けるのか。楽になれるのか。書くことの本質とは何なのかを語り合っていく。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに 山内朋樹
- 座談会その1「挫折と苦しみの執筆論」
- 執筆実践「断念の文章術」 読書猿
- 執筆実践「散文を書く」 千葉雅也
- 執筆実践「書くことはその中間にある」 山内朋樹
- 執筆実践「できない執筆、まとめる原稿ーー汚いメモに囲まれて」 瀬下翔太
- 座談会その2「快方と解放への執筆論」
- あとがき 千葉雅也
アウトライナーが便利そう
話の発端として、最初の座談会である「挫折と苦しみの執筆論」は、アウトライナー(アウトラインプロセッサとも言う、文書の作成、支援ツール)である「WorkFlowy」利用者を集めて、そのノウハウを共有しようというところから始まっている。アウトライナーって何?と思われる方も多いかと思うので、Wikipedia先生から雑に引用しておこう。
アウトラインプロセッサ(outline processor)とは、コンピュータで文書のアウトライン構造(全体の構造)を定めてから、細部を編集していくために用いられる文書作成ソフトウェア。英語ではoutlinerという呼称が一般的。
ScrivenerやWorkFlowyあたりがメジャーなところかな。海外のサービスなので、はじめるにはちょっとハードルがある。ある程度以上の長さの文書を定常的に書く人であれば、使いこなせるとかなり役に立ちそう。
文章術の本で、具体的なソフトウェアツールを紹介してくれるものには、これまで接したことがなかったのでとても興味深く読んだ。
四人それぞれの「書くノウハウ」が面白い
座談会その1「挫折と苦しみの執筆論」を受けて、その後どんな変化があったのか。四人の筆者の体験談が綴られているのが、続く「執筆実践」のセクションである。
個人的には読書猿による「断念の文章術」が特に面白かった。項目を挙げるとこんな感じ。この人はホントに見せ方が上手いよね。
- 断念1 ノンストップ・ライティング:構成やプランをあきらめる
- 断念2 ランドリーリスト:文章を書くことをあきらめる
- 断念3 インキュベーション:資料を見ることをあきらめる
- 断念4 無能フィルター:有能な自分をあきらめる
- 断念5 進捗アウトライン:意思の力をあきらめる
- 断念6 Scrapbox:全体を見渡すことをあきらめる
- 断念7 締め切り:もっと良くすることをあきらめる
完璧を期さない。とにかく書いてみる。
書き手として立つことは「自分はいつかすばらしい何かを書く(書ける)はず」という妄執から覚め、「これはまったく満足のいくものではないが、私は今ここでこの文章を最後まで書くのだ」と引き受けるところから始まる。
『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』p137より
自分の中にある「理想の文章」的なものを、あえて諦める。完璧でなくても世に出してしまう。というのは、前に進むために必要なことであるのかもしれない。
書くことは理想化、我執との戦い
最後の座談会その2「快方と解放への執筆論」では、それぞれの「執筆実践」を読み込んだうえで、筆者らが何を感じ、考えたのかを語っていく形式を取っている。
とかく、文章術の本というと「〇〇してはならない」的なべからず集になりがち。という側面があるが、本座談会ではもっと緩く考えていて、「〇〇してもいいんじゃない」くらいの、気軽に書いてみようという形に落ち着いている。
時に、書くことは理想化との戦いになってしまいがちだ。筆者の一人である千葉雅也は「我執を離れること」と書いている。普段の喋りのように気楽に、もっと自由に書いてみても良いのではないか?そう捉えると、「書く」行為が少しだけ楽になるかもしれない。
お役立ち小ネタ集
最後に、本書を読んで、これは使えそう!と感じた、ライティングテクニックの小ネタをいくつかまとめておこう。
- 書くべきことを項目別に細かく書き出してみる
細部まで書くべきことを定めてしまうと、あとの作業は単なる穴埋め作業になるので、格段に書きやすくなる。
- 深く考えずにとにかく書いてみる
構成や、重複、誤字脱字も考えず、脳内からアウトプットされるがままに、まずはとにかく自分の中にあるものを吐き出してみる。そうすると意外と、本当に書きたいことが明らかになってくる。
- ワードのディクテーション(音声入力)機能を活用
書き言葉でなく、喋り言葉で。まずはひたすら話してしまう。最近の音声入力は優秀なので、けっこうしっかり拾ってくれる。
- エディッタの改行(折り返し)文字数を少なめに設定
あまり書けてなくても、たくさん書けてる気がする(笑)。
- 煮詰まったらバカンス!
もちろんバカンス先では書かない。バカンスでの時間が本質的な意味でのインプットになっていく。