バズったことがないあなたに
お恥ずかしい話だが、Twitterを10年、ブログを20年近くやっているが、バズりを体験したことがない。扱うテーマが地味なのか、文体や見出しの問題なのか、それとも書き手のキャラクターのせいなのか。
あなたは、Twitterやブログを書いていてバズりを体験したことがあるだろうか?増え続けるアクセス、コメントの嵐、鳴りやまない通知、わらわらと現れるアンチ(これは嫌だなあ)。アンチは勘弁してほしいけど、バズりそのものには憧れを抱く方も多いだろう。
さて、このバズりを狙うための「文章の書き方」があるとしたらどうだろう?本日ご紹介する『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』は、バズるための文章の書き方を教えてくれる一冊なのである。
人気女性ライターが書いた「バズる文章教室」
本書は2019年刊行。筆者の三宅香帆(みやけかほ)は1994年生まれの文筆家・批評家。天狼院書店在籍中に書いたコラム『京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。』が猛烈にバズり一躍、人気のライターとなる。
デビュー作は2017年の『人生を狂わす名著50』。その後、2019年には本書をはじめ、『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』『妄想とツッコミでよむ万葉集』と、三冊を一気に刊行し話題となった。最新作は2020年の『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法 』である。
この本で得られること
- バズる文章の書き方がわかる
- プロ作家の文章テクニックの凄さがわかる
内容はこんな感じ
バズる文章には「読みたくなる文章のからくり」がある。森鴎外、谷崎潤一郎、三島由紀夫ら、日本の文豪たち。村上春樹、よしもとばなな、林真理子ら、現代の人気作家たち。そして、星野源、松井玲奈、しいたけら、人気アーティストたち。人を引き付ける文才を持った彼らの「すぐれた文章感覚」を平易な言葉を使って解説した一冊。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに
- CHAPTER1 バズるつかみ どうすれば、振り向いてくれる?
- CHAPTER2 バズる文体 どうすれば、心を開いてくれる?
- CHAPTER3 バズる組み立て どうすれば、楽しんでもらえる?
- CHAPTER4 バズる言葉選び どうすれば、思い出してくれる?
- あとがき
文体オタクによる文体解説本
本書は、文芸オタクを自認する三宅香帆が、古今の人気作家49人の文章を読み、その特徴を分析した一冊である。登場するのは森鴎外のような明治の文豪から、恩田陸、三浦しをん、綿矢りさのような現代の人気作家、更には本業が作家ではない、漫画家のかっぴーや、こんまり(近藤麻理恵)といったメンバーに至るまで幅広く取り揃えている。
各コーナーでは、お題となる作家の文章が引用され、そこに筆者がツッコミを入れていくスタイルをとっている。実際の文章に赤文字で直接書き込みがなされていくので、ビジュアル的にわかりやすく、この見せ方はなかなか上手いと思った。なんとなく、受験生時代の現代文の予備校授業を思い出してしまう。
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三宅香帆の着眼点の面白さは、「どんなことが書かれていたか」よりも、「どんなふうに書かれていたか」を重視している点にある。とかく読書というと、内容ばかりに目を奪われがちだが、筆者は違う。内容よりも、表現方法に着目しているのだ。この筆者の場合、文芸オタクというよりは、文体オタクといった方が的確かもしれない。微に入り細を穿ったツッコミの数々が楽しい。
本書を読んでみると、プロの書き手がどんな効果を狙って、どんな表現を用いているのかがわかるようになる。改めてプロの凄みを感じた。
バズる文章とは?
さて、気になる「バズる文章」についてだが、各CHAPTERのサブタイトルを見てみると、その骨子がわかる。
- どうすれば、振り向いてくれる?
- どうすれば、心を開いてくれる?
- どうすれば、楽しんでもらえる?
- どうすれば、思い出してくれる?
つかみでまずは「振り向いて」もらう。どんな文章でも人目に止まって、立ち止まり、中身を見てもらえなくては始まらない。そのためのテクニックとしてしいたけ(占い師)の「最初に意味不明な言葉を放り込む」や、星野源の「問いを共有する」などの手法が紹介される。
つかみの次は「心を開いて」もらうための工夫である。初対面の相手には心理的障壁を誰でも作りがちである。初めて読む相手の文章は、なかなか頭に入ってこないものである。ましてや、心には響いてこない。心を開かせるための工夫として、本書では、村上春樹の「読みたくなるリズム」のある文体や、綿矢りさの「語尾をぶった切る」文体、ひらがなを多用することで、読み手の読む速度を支配する、向田邦子の「ひらがなで印象を変える」などの方法が登場する。
「心を開いて」もらったらしめたもの、次は「楽しんでもらえる」ための作法だ。ここでは「オチでひっくり返す」秋元康の文章、逆に「オチを先に書いてしまう」さくらももこの文章、「言いたいことを、言い換える」齋藤孝らの文章が紹介されていく。文章の見せ方、展開のさせ方のバリエーションが多数登場するので、これは本当に参考になった。
最後は「思い出してくれる」ために、もう一工夫。また読んでもらう。ファンになってもらう。リピーターを作っていくための考え方が示されている。「カタカナで注目させる」俵万智、「万人に通用する例を出す」松井玲奈、「突然、読み手に話しかける」阿川佐和子などなど、知ったら使いたくなる小技が満載となっている。
文章を書く人には目からウロコの一冊
以上、三宅香帆の『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』について、簡単に紹介してみた。本書を読むと、プロの作家が、句読点のひとつひとつ、漢字で書くかかなで書くか、どこで改行を入れるのか、どこにオチを入れてどう読ませるのかなどなど。細かな点までこだわり尽くして書いていることがよくわかる。
本書では49の文章テクニックが紹介されている。これらは文章を書く人間であれば、引き出しとして頭に入れておきたい手法ばかりだ。文章を書く人間であればにはワクワクしながら読めるはずだ。
そして、これらのノウハウは「書く能力」だけでなく、「読む能力」も確実に高めてくれる。本書を読んだ後では、プロの文章が「どんなふうに書かれていたか」まで、ついつい気にして読んでしまうに違いない。