自分のコトバでつくるオタク文章術
2023年刊行。筆者の三宅香帆(みやけかほ)は1994年生まれの書評家、作家。京都大学文学部、同大大学院修士課程、博士前期課程修了。現在は京都市立芸術大学の非常勤講師も務めている人物。
古典や文章術についての著作を多数上梓しており、本ブログでは以前に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』をご紹介している。
内容はこんな感じ
アニメ、マンガ、小説、アイドル、バンド、舞台。あなたの「推し」は何ですか?SNSや、ブログで、推しについて、大好きな対象についてその愛を語りたい!でも、いざ文字にしてみると哀しいくらい何も書けない。その理由はどこにあるのか?どうすれば書けるようになるのか?書評のプロが教えてくれる推し語り術!
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 第1章 推しを語ることは、人生を語ること
- 第2章 推しを語る前の準備
- 第3章 推しの素晴らしさをしゃべる
- 第4章 推しの素晴らしさをSNSで発信する
- 第5章 推しの素晴らしさを文章に書く
- 第6章 推しの素晴らしさを書いた例文を読む
- おまけ 推しの素晴らしさを語るためのQ&A
- あとがき
感想を書くのって難しい
いきなり自分語りで恐縮だが、読書感想のブログを書き始めた頃はほんとうに書けなかった。あらすじは書けるとしても感想が書けない。当時のログを見てみると、一冊につき3~4行書ければいい方。酷いと1~2行で終わってしまっている。書きたい思いはあるのに、いざそれをコトバとして残そうとすると途端に壁にぶつかる。感想を書くのにはそれなりのテクニックが必要なのだ。
『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しか出てこない』は、そんな当時の自分に読ませたい一冊だ。好きなもの(推し)について書くには何が必要なのか。本書では書く前の準備からはじまり、具体的な実践例について、筆者の豊富な経験をもとに解説していく。事細かに手順が示されているので、何をしていいかわからない方は、素直にこの本の通りに書けば自分なりの発信が出来るようになるのではないだろうか。
書く前の準備
自分の感想を言語化するうえで、最も大切な要素として筆者は以下を挙げている。
- 良かった箇所の具体例を挙げる
- 感情を言語化する
- 忘れないようにメモをする。
思いは揺らぎ、移ろっていくものなので、その時だけの生の感想をリアルタイムで書き留めておくことには意義がある。そして、上記の作業をする際に、重要なのは自分でコトバにする前に、決して人の感想を見ないことだ。
面白い対象に出会った時、それが素晴らしければ素晴らしいほど、他者の感想を読みたくなるもの。よって、他者の感想を読みたい!という欲求をこらえるのは、結構辛かったりもする。しかし自分の中での言語化される前に、他者の感想を目にしてしまうとどうしてもそのコトバに影響を受けてしまう。自分のコトバで語れなくなってしまうので注意が必要なのだ。
言語化とはいかに細分化するか
それではいざ言語化しようとした際には、何をすればいいのだろうか。筆者はひたすら細分化すべしと説くのだ。
そう、言語化って、細分化のことなんです。
感想だけでなく、この世のあらゆる言語化は、まず細分化が必要です。言語化というと、なにかをそっくりそのまま言い換える表現のように思われますが、違います。
言語化とは、「どこが」どうだったのかを、細分化してそれぞれを言葉にしていく作業なのです。
『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しか出てこない』p78より
〇〇最高!と感じたのだとしたら、〇〇のどの部分が最高だったのかを考える。小説であれば、セリフなのか、キャラクターの行動なのか、意外な結末なのか。何がどう良かったのかを徹底的に細分化し、自分のコトバで書き留めていくのだ。
感想を言語化するには?
語りたい対象について細分化まで出来たとして、それでは実際にはどう言語化していけばいいのだろうか?本書では以下のプロセスを取るべしと主張している。
- 語りたいのは「共感」なのか「驚き」なのかを見定める
語りたいのが「共感」である場合
- 自分の体験との共通点を探す
- 自分の好きなものとの共通点を探す
語りたいのが「驚き」の場合
- どこが新しいのかを考える
このステップを踏むことである程度の言語化は出来てしまう。
ただ、「共感」であれ「驚き」であれ、前提として自分の中にある過去の体験との比較が必要となってくる。そのため経験量が多いほど、比較対象が増えるので書けることが増える。なかなか感想が書けない、言語化出来ないというのは、そのジャンルについての経験値が足りていないことが多い。
コトバをナイフにしないために
あとがきで筆者は本書を書いた理由としてこんなことを書いている。
それは、SNSで出回っている言葉があまりに無防備で、ナイフがびゅんびゅん飛び回っている状態に、ここ10年くらいずっとドキドキしていたからなのです。
『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しか出てこない』p249より
SNSではコトバだけでやりとりをするので、その裏側にある書き手の感情や意図まで汲み取ることは難しい。自分に向けて書かれた文章ではないのに、気にしてしまったり、傷ついてしまったりしてしまうこともある。
つまり他人の言葉をナイフにしないために、自分の言葉をつくる必要があるのです。
「他人の言葉と距離をとろう、自分の言葉をつくろう」、これを言いたくて私はこの本を書きました。
『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しか出てこない』p250より
自分の感想を言語化する前に他者の感想を見ないという筆者の考えは、上記の危惧も踏まえているのだろう。まず自分の考えをしっかりと言語化することで、それは鎧になる。もちろん自分の言葉が、他者にとってのナイフになることは当然あり得るので、その点は十分に注意しておきたいところ(筆者自身もこないだ炎上してたし難しいよね)。