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『陸の深海生物 日本の地下に住む生き物』小松貴 知られざる地下生物140種を紹介した魅惑の生物図鑑

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2023年刊行。筆者の小松貴(こまつたかし)は1982年生まれ。信州大学大学院博士課程修了、国立科学博物館協力研究員のキャリアを経て、現在は在野の昆虫学者として活躍している人物。

陸の深海生物: 日本の地下に住む生き物

現在までに、以下の著作がある。

  • 裏山の奇人:野にたゆたう博物学(2014年)
  • 虫のすみか:生きざまは巣にあらわれる(2016年)
  • 絶滅危惧の地味な虫たち(2018年)
  • 昆虫学者はやめられない(2018年)
  • ハカセは見た!!学校では教えてくれない生きもののひみつ(2018年)
  • 陸の深海生物 日本の地下に住む生き物(2023年)

また、昆虫イラストの描き手として知られる、じゅえき太郎による見開きマンガが四編収録されている。

  • 迷子の迷洞窟性生物
  • ピンチはチャンス!? ラッキー亀裂
  • 剛毛で察知!? メクラチビゴミムシ
  • 輝いた!? 小松さんの涙とクラチビゴミムシ

内容はこんな感じ

日本国内には多種多彩な「陸の深海生物」が存在する。地下はただ土が詰まっただけの場所ではない。そこには豊饒な生命の営みがある。日本の地下空隙に生息する、節足動物、扁形動物、軟体動物から代表的な種の生態写真をカラーで提供。知られざるその生態、特徴を詳らかにしていくと共に、地下生物の魅力を伝えてくれる一冊。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 陸にもあった!?深海生物の世界
  • 節足動物門(昆虫綱甲虫目/鱗翅目/直翅目/網羽目/ガロアムシ目 ほか)
  • 多足亜門(ヤスデ綱オビヤスデ目/ヒメヤスデ目)
  • 甲殻亜門(軟甲綱ムカシエビ目/ワラジムシ亜目 ほか)
  • 扁形動物門(ウズムシ綱ウズムシ目)
  • 軟体動物門(腹足綱吸腔目/有肺目)
  • 種名index
  • 参考文献
  • あとがき

魅惑の地下生物図鑑

この10年で深海に住む生物たちが脚光を浴びた。ダイオウグソクムシや深海鮫ラブカが話題となり、深海魚を取り扱った書籍も多数刊行された。

しかし、興味深い生物が存在するのは深海だけではない!地下や洞窟の中にも、魅力的な生態系が広がっているのだ!と、意気盛んに地下生物の素晴らしさを教えてくれるのが本書である。

本書では日本の地下世界、暗闇に暮らす生物約140種を全てカラー写真付きで紹介していく。深海同様に、地上とは異なる生活環境であるがゆえに、地下で暮らす生物は眼や翅が退化し、特異な進化を遂げた例が多い。また移動範囲が極めて狭いため、特定の地域のみに棲息する固有種が非常に多いのも特徴的だ。

なお、本書に登場するのは昆虫の類であるため、ムシ系の生き物が苦手な方は回避した方が良いかと思われる。

知られざる地下の世界

本書を開いてまず最初に登場するのはゴミムシだ。ゴミムシは地上世界でも見ることができるが、本書で取り扱うのは地下での暮らしに最適化されたメクラチビゴミムシの一群だ。これがいきなり50頁近く続き、一般人をたじろがせる。パッと見では、なにがどう違っているのかさっぱり分からないのだが、見る方が見れば歴然とした差異があるらしい(スゲー)。

※なお、メクラ〇〇というゴミムシの和名に対しては、近年差別的であるとして「メクラ」の部分を省略して取り扱う事例が増えているのだとか。だが、筆者は、生物の和名はそれ自体が一つの固有名詞であり、発信者が個人の裁量で単語を勝手に抜き差しして良いものではないとの信念から、本書では省略せずにそのまま掲出されている。

ビジュアル的にわたしのイチオシとなったのはラカンツノカニムシだ。蠍を小型化したかのようなフォルムで、触肢が変化した大型のハサミがインパクト大だ。

また地下世界は太陽光が入らないため、色素が抜け落ちてしまい、体色が白かったり、時として透明になってしまっている生物も散見される。純白のヤスデやムカシエビ、ナガコムシなどの姿は、純粋に美しいと感じた。

筆者の地下生物愛が凄い

本書では生物図鑑の合間合間に、筆者による地下生物コラムが収録されている。地下深くで生活しているこれらの生物を採集、観察するために、筆者はひたすら地面を掘り返したり、地下水をくみ上げまくったり、蝙蝠の糞まみれになりながら洞窟は這いずり回ったりしているのだ。地下の世界は云うまでもなく、人間にとっては危険極まりない世界で、一つ間違えれば生命の危機に陥る。だが、それでも嬉々として洞窟へ出かけていく筆者の熱量がとにかく凄い!どんな世界でも、本気になって取り組んでいる人を見ると、読み手も活力を分けてもらえるようでちょっと嬉しくなる。

冒頭にも書いたが地下生物は環境の変化に弱いので、現在の生活環境と異なる場所へ移動することが難しい。そのため固有種が多く、地域独自の進化を遂げたものが多い。しかしその多くは研究が進んで居らず、学名すらついていない種も少なからず存在する。研究者の絶対数も少ないようなので、まだまだ地下の世界には知られざる種が眠っていそう。

ただ、各地の洞窟などは開発や観光化が進んで、貴重な固有種の数々がほとんど研究すらされないまま絶滅してまうケースも出てきている。なんともやりきれない部分で、どうしても地味なジャンルであるだけに保護や研究の予算もつきにくいのだろう。

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