「階級格差社会」日本を読み解く
2020年刊行。筆者の橋本健二(はしもとけんじ)は1959年生まれ。現在は早稲田大学人間科学学術院の教授職。主著に『階級都市』『アンダークラス』『新・日本の階級社会』『<格差>と<階級>の戦後史』がある。統計データを元にした、日本の社会構造の変化。特に階級格差についての著作が多い。
この本で得られること
- 日本の「中流」階級について知りたい方
- 「階級社会」としての日本の実態を知りたい方
内容はこんな感じ
「一億総中流」は昭和の幻想だった。日本人が持つ「中流」の意識はいかにして形成されたのか?新中間階級と旧中間階級。「中流」階級はどのような人々で成りたち、そしていかにして没落していったのか。新型コロナウイルス禍で、より鮮明になりつつある「階級格差社会」。 「中流」を再生し、新たな希望を見出していくことは出来るのだろうか?
目次
本書の構成は以下の通り
- 第1章 「総中流」の思想
- 第2章 理想としての「中流」
- 第3章 「総中流」の崩壊
- 第4章 実態としての「中流」
- 第5章 主体としての「中流」
- 終章 中流を再生させるには
「中流」は本当に存在したのか?
日本は世界的に見ても「階級」意識が希薄な国であるとされ、高度成長期による経済発展で「一億総中流」の認識が強まった。本書ではまずこの「中流」意識がいかにして形成されたのかを紐解いていく。
1967年の『国民生活白書』には「階層帰属意識」の項目があり、自分の生活程度を上、中の上、中の中、中の下、下の五段階から選択させるもので、この結果「中の上、中の中、中の下」が89%を占めたとして、日本人の中流化意識が強まったと結論付けている。
何故か「中」に関する項目だけ三つも選択肢がある時点で、恣意的な誘導を感じないでもない。もっとも、とかく人間は自分が「ふつう」であると考えがちだし、自分と収入レイヤーが異なる層とはあまりつきあわないから、なんとなく自分は「中」程度なのかと思ってしまいがちという部分もあるのかな。
本書では、日本での「中流」意識形成されていった経緯を順を追って解説し、それが幻想にすぎなかったことを示していく。
旧中産階級と新中産階級
実質的な「中流」層を占めている人々の多くを、筆者は旧中産階級と新中産階級に該当するとしている。旧中産階級は農家や、商店、中小工場等を経営する自営業者らを指す。そして新中産階級は、大企業のホワイトカラー層を指す。
旧中産階級層と新中産階級は、配偶者の職業、結婚の有無によって更に細分化される。この点については統計データを駆使した、第四章「実態としての「中流」」にて詳述されている。この筆者はこういう分類が好きだよね。以前に読んだ『新・日本の階級社会』とかなり被る部分があった。
自分はどこに分類されるのか、興味のある方は一読をおススメする。
「中流」の政治意識
興味深く読んだのは第五章「主体としての「中流」」である。ここれでは「中流」層の政治意識について、歴史的な経緯も踏まえ複数の視点から分析がなされている。
格差容認、新自由主義を是とする右寄りの保守勢力。現状維持の穏健保守。そして弱者救済の志向が強いリベラル層。「中流」層といっても、その政治思想は一枚岩ではない。
穏健保守や、リベラル層は「中流」の中でもボリュームゾーンとなっている。しかしながら、現在の日本が不幸だと思うのは、穏健保守や、リベラル層の政治志向を受け止められるまともな政党が存在しないことなのではないかと思う。
全体の中では決して多数派ではないはずの右寄りの保守勢力が、組織力によって全体の意思決定を担ってしまう。このままでは「中流」の衰退はさらに拍車がかかっていきそうなのである。
終章で、筆者は格差拡大を是正するために、賃金格差をなくすこと、富裕層への増税、資産税の導入、社会保障の強化などを挙げているが、現在の政権が続く限りこのような政策が実現されることはないであろう。なかなか現状は厳しい。