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『中流危機』NHKスペシャル取材班 中流層没落の原因と再生のための処方箋は?

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NHKスペシャルを書籍化

2023年刊行。2022年9月に放映された「NHKスペシャル”中流危機”を超えて」をベースに、書籍としてまとめたもの。最近はこの手の、テレビで放映した内容を本にしました!的なものが多くなってきた気がする。

中流危機 (講談社現代新書)

映像はNHKオンデマンドで現在でもみられるみたい。

内容はこんな感じ

結婚できない、正社員になれない、車が買えない、趣味にお金をかける余裕がない、持ち家に住めない、旅行にも行けない。かつて「一億総中流社会」と呼ばれたのも過去の話。バブル崩壊から30年を経て、日本の中流層は見る影もなくやせ細ってしまった。その原因はどこにあるのか?対策はあるのか?国、企業、そして個人がいま出来ることは何なのかを考える。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 【プロローグ】稼げなくなった中間層
  • 第1部 中流危機の衝撃
  • 第1章 幻想だった中流の生活
  • 第2章 夢を失い始めた若者たち
  • 第3章 追い詰められる日本企業
  • 第4章 非正規雇用 負のスパイラルはなぜ始まったのか
  • 第2部 中流再生のための処方箋
  • 第5章 デジタルイノベーションを生み出せ
  • 第6章 リスキリングのすすめ
  • 第7章 リスキリング先進国ドイツに学ぶ
  • 第8章 試行錯誤 日本のリスキリング最新事情
  • 第9章 同一労働同一賃金 オランダパートタイム経済に学ぶ
  • 【エピローグ】ミドルクラス 150年の課題

日本の中流層って?

まず日本の「中間層」とはどんな人々が該当するのだろうか。本書ではこう説明している。

中間層の定義はさまざまだが、複数の専門家は、日本の全世帯の所得分布の真ん中である中央値の前後、全体の約6割から7割にあたる層を所得中間層としている。

『中流危機』p3より

全世帯の中の6割~7割とあるので、相当な数ではある。2020(令和2)年の国勢調査(PDF)では、日本の世帯数は5570万5千世帯とされているので、3342~3899万世帯が「中間層」に該当する。

日本の世帯収入の中央値は、1994年に505万円だったものが、2019年には374万円にまで減少している。日本人の世帯収入はこの四半世紀で約130万円も減少してしまっているのだ。

※高齢化によって現役を引退し、年金収入に頼る世帯が増えたこと、単身世帯が増えたことも考慮すべきなので単純に比較するのはちょっと無理があるけどね

中流危機の衝撃

本書は二部構成になっている。前半の「第1部 中流危機の衝撃」では、現在の中間層がどのような状態になっているのか。どうして日本社会は地盤沈下してしまったのかを考察していく。

かつては雇用も、経済的な安定も、人材育成や福利厚生もすべて企業が担っていた。新卒一括採用と、年功賃金、終身雇用。この日本独特の労働形態は、右肩上がりで経済が成長している時代には相応に意義があった。

しかし、現在の企業はグローバルな世界での経済競争で疲弊し、人材に投資する余力がない。切り詰めるのは人件費だとして、経済界は派遣法の改正を望み、結果として大幅に非正規雇用が増加。現在では労働者の四割にまで達してしまう。労働団体は正社員は守ろうとするが、非正規にまでは手が及ばない。かといって正社員の賃金が増えるでもなく、物価は上がっていくばかりなので消費も伸びない。まさに負のスパイラル状態で、現代の仁尾本で「失われた〇〇年」がいたずらに延長されていく印象が強い。

中流再生のための処方箋

ではどうすれば、この詰んだ状況から脱することができるのか?後半の「第2部 中流再生のための処方箋」では、三つのキーワードを挙げている。

  • デジタルイノベーション

日本はアメリカのGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)や、中国のBAT(百度(バイドゥ)、阿里巴巴集団(アリババ )、騰訊(テンセント))に相当する巨大IT企業を創出できなかった。

日本はIT先進国と比べてデジタル投資に後れをっているが、本来のものづくりの技術と、最新のデジタル技術を組み合わせることでイノベーションが起こせるのでは?との考え。

  • リスキリング

AIやデジタル技術の普及で今後は事務職のスキルが余剰となる。この余った人材にIT教育を施して、人材の配置転換をしていく。

リスキリングは個人が業務時間外に行う学びなおし(リカレント教育)とは異なる。企業や国が行い、あくまでも就業時間内に完結。なおかつ、新たな仕事や業務に就くことまでも視野に入れた動きとなる。

リスキリングについて、もっと知りたい方には以前にこのブログで紹介した、こちらの書籍がおススメ。

  • 同一労働同一賃金

同じ仕事をしているのであれば、非正規だろうが、正社員だろうが同じ賃金を与えるべきである。これが「同一労働同一賃金」の考え方だ。使い捨てるような雇用を続けていては、企業も労働者も疲弊してしまう。非正規層の待遇改善が中流復活の鍵になる。

変化には痛みが伴いそう

本書はエピローグ部分で、日本型雇用システムの機能不全を説く。鍵を握るのはリスキリングだが、企業や個人だけに責任を押し付けるのでなく、国単位での取り組みが必要とまとめる。でも、国家単位の対策となると、とたんにこの国は対応がポンコツになるので、あまり期待はできなさそう。まずは自分を変えるところから。コツコツ進めるしかないように思える。

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