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『問題はロシアより、むしろアメリカだ』池上彰×エマニュエル・トッド 第三次世界大戦に突入した世界

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対談形式でウクライナ戦争を語る

2023年刊行。日本人ジャーナリスト池上彰(いけがみあきら)と、フランス人の歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)による対談本。

問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界 (朝日新書)

対談はオンラインで行われ、三日間、計八時間に及んだとのこと。ネット上の対談で本が一冊出来てしまうのだから昨今は凄いな。基本的には池上彰が聴き手にまわり、エマニュエル・トッドが自らの思想を語る構成となっている。

内容はこんな感じ

2022年2月24日にはじまる、ロシアのウクライナ侵攻は世界を震撼させ一変させた。この戦争を我々はどうとらえるべきなのか。エマニュエル・トッドは語る。「この世界からアメリカがなくなれば、より平和な世界が現れるだろうーー」と。この戦争の問題はロシアよりも、むしろアメリカにある。アメリカを初めてとする西側社会は世界のごく一部でしかな。新たな視点からウクライナ戦争を見つめ直した一冊。

目次

本書の構成は以下のとおり。

  • はじめに
  • 第1章 ウクライナ戦争の原因とジャーナリストの責任
  • 第2章 終わらない戦争
  • 第3章 無意識下の対立と「無」への恐怖
  • 第4章 アメリカの没落
  • 第5章 多様化していく世界と我々
  • ロシアはもちろん悪いのだがーーあとがきに代えて
  • 年表 ウクライナ戦争をめぐる動き

アメリカは西側の価値観を押し付け過ぎなのではないか?

エマニュエル・トッドは1951年生まれのフランス人学者。フランスではマスコミ出禁になっているみたいで、最近は自国以外でメディアに取り上げられることが多いみたい。

本書では、とかく悪者にされがちなロシアだけど、戦争を始めるまでに追い込んだアメリカや西側諸国にも問題がある。というのが、エマニュエル・トッドの主張。いわゆる逆張り本なので、どちらかと言えば西側陣営に属する日本のわたしたちから見ると、かなり過激な思想にも思える。けれども、多様な視点の存在を知っておくのは有用かと思われるので、こういう考え方もあるんだーくらいのテンションで読むと良いのではないかと。

第二次大戦以降、超大国化したアメリカは自国の資本主義、民主主義思想を各国に押しつけた。ベトナム戦争や、中東各国への介入、そして旧ソ連諸国の取り込みなど、失敗した事例も多いが、一定の成果はあげてきている。一方で、ロシアのような権威主義体制の国家は、他国に自国の思想を押しつけない。それぞれの国の特殊性を尊重する(と、エマニュエル・トッドは主張している)。

旧ソヴィエトの崩壊後、アメリカ(とNATO諸国)は、旧東側陣営の切り崩しに執心している。NATO化の勢いはついにロシアと国境を接し、広大な国土を持つウクライナにまで迫った。アメリカがウクライナの取り込みを断念して、せめて中立化あたりで鉾を収めていれば戦争は起きなかったのではないか?戦争の責任はむしろアメリカにあるのでは?と説くのである。

ウクライナ戦争五つのファクター

本書で、エマニュエル・トッドがウクライナ戦争における、五つのファクターとして挙げているのが以下の五か国。

  • ロシア

⇒合計特殊出生率が1.5に留まり、近い将来人口構成に大きな問題が出てくる。五年以内にアメリカやNATO諸国に勝利する必要がある。

  • 中国

⇒ロシアがアメリカやNATO諸国と、いかに渡り合うかを関心を持って注視している。気たるべき中国が起こす戦争の良いシミュレーションとなっている。

  • アメリカ

⇒ウクライナ戦争が長期化し、多大な支援をしているだけに引くに引けない状況になっている。ウクライナが負ければ面目を失う。

  • ポーランド

⇒歴史的経緯からロシアを非常に警戒し敵対視している国。ロシアに対して非常に好戦的。

  • ドイツ

⇒アメリカの意図としては、この戦争を機会にドイツとロシアを離間させたかった。NATO、EUの要はドイツ。第二次大戦の敗戦国であったドイツは、長くアメリカの「保護国」だった。ここまではアメリカの意図に従順だったドイツが、今後どれけだけ自主性をだしてくるかに注目。

アメリカのイラク侵攻と重なる側面も

かつてアメリカは2003年のイラク侵攻を、国連の決議を得ることもなく独断で敢行し、数十万人のイラク国民を死に至らしめた。イラク侵攻の理由として、アメリカは大量破壊兵器の存在を掲げたものの、戦後の調査でこれらの兵器は発見されなかった。この戦争でフセイン政権が打倒されたものの、強力な指導者を失ったその後のイラクは政情不安となり、イスラム国の台頭を許したことは記憶に新しい。

もちろんロシアによるウクライナ侵攻を正当化することは断じて出来ないのだけれど、同じような「全く不当な戦争」をかつてアメリカもやっている。物事の見方はひとつではないし、世界にはさまざまな考え方があることを知っておく意味では参考になる一冊なのではないかと。

エマニュエル・トッドにかかると、アメリカをはじめとした西側の価値観はぼっこぼこにされるので、ロシアが悪い!ウクライナは救うべき!的な世論が強い日本としては、ここまで書いていいの?とツッコみたくもなってくるけどね。

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