2000年刊行。本日は日垣隆(ひがきたかし)が2000代の前半に上梓した二冊の社会批判本をご紹介したい。日垣隆は1958年生まれの作家、ジャーナリスト、ノンフィクションライター。
1999年の『「買ってはいけない」は嘘である」』で第61回の文藝春秋読者賞を。2004年の『そして殺人者は野に放たれる』では第3回の新潮ドキュメント賞を、それぞれ受賞している。
『偽善系 やつらはヘンだ!』
本書、『偽善系 やつらはヘンだ!』は、「本の話」「文藝春秋」等に発表されていた論評を大幅加筆。更に書き下ろしを追加して単行本化したもの。
文春文庫版は2003年に登場しているようなのだが、Amazonでのリンクが探せなかった。
『偽善系 やつらはヘンだ!』の内容はこんな感じ
携帯電話のマナーの悪さ、インターネット社会の無法ぶり、肥大化した郵政事業、凶悪化する少年犯罪、教育界の偽善者、旧態然とした司法制度……。その欺瞞を徹底した調査、取材と緻密な論理攻勢によって徹底的に暴く。現代日本で横行する偽善の数々に対して鋭くメスを入れた一冊。
断言してしまうことへの危うさも感じる
電車の中で平気で電話してる奴には腹も立つし、現在の司法制度はヘンだと思う。人権ママの横暴振りはそりゃきっとひどいのだろう。凶悪きわまりない少年犯罪には厳罰で臨んで欲しいと切に願う。だから明快にこれは偽善っ!って言い切ってくれる人の言葉はとても耳に心地よい。
とはいいながらも、批判の数々はいずれも断片的でとりあげている事象の大きさを考えるといかにも物足りない。一つの考え方として聴いておく分にはいいのかもしれないが盲信するのは危険。世の中なんでも白黒はっきりさせられる事ばかりではないだろう。
『偽善系II 正義の味方にご用心!』
『偽善系』第二弾。2001年の刊行。「文藝春秋」「別冊宝島」「諸君!」「エコノミスト」「新潮45」等で発表されていた評論をまとめ、単行本化したもの。
文春文庫版は2003年に刊行されている。
『偽善系II 正義の味方にご用心!』の内容はこんな感じ
無為無策のままに野放しにされてきた再犯者たち。人権の名の下に殺人も「なかったこと」にされる「心神喪失」。辛口評論家佐高信の真実。「田中知事」誕生前夜の長野県政の腐敗ぶり。世に溢れる欺瞞と偽善の数々に断固として異を唱え、鋭く切り込む『偽善系』第二弾。
これもひとつの考え方として
前作同様に寄せ集め的な収まりの悪さは感じるのだが、やはりこれも慣れなのか、この著者独特の、こき下ろし文体のリズムに快感を覚えるようになってきたのは間違いなくまずい兆候だろう。
「心神喪失」や再犯者問題に対しての提言は前作で触れられていたが、まあ、十分これは不勉強なわたしでもついていけた。心情的にも首肯出来る部分もあるのだけど、すべてを受け入れてしまうには危うい部分が多い。あくまでもひとつの考え方として受け止めておくのが、この著者の作品への、適切な距離の取り方ではないかと感じた次第。