屋根職人のエキスパートが教えてくれる
2004年刊行。中公新書。筆者の原田多加司(はらだたかし)は1951年生まれ。地方銀行勤務から実家の檜皮葺師への道に入り十代目原田真光を襲名している。国宝、重文級の建築物の修復を数多く手がけてきた屋根職人のエキスパートである。
内容はこんな感じ
寺社仏閣や城郭、著名な日本建築を目にしたとき、まず最初に印象に残るのは巨大な屋根だろう。日本建築の屋根は世界のそれと比較して、非常に特異な形で発展を遂げてきた。縄文期の竪穴式住居に始まり、大陸からの仏教伝来を受けた古代寺院の建立。平安時代の寝殿造りから戦国期の城郭建築、そして様々なバリエーションを持つに至った江戸期まで。現役の屋根職人が語る屋根の通史。
目次
本書の構成は以下の通り。
- 序章 屋根のフォークロア
- 第1章 大陸への憧憬
- 第2章 貴族文化と屋根
- 第3章 和様美の定着
- 第4章 戦国時代の職人たち
- 第5章 江戸の屋根文化
- 第6章 合理化、画一化の時代
日本建築の「屋根」に注目した一冊
これまでほとんど知られていなかった日本建築の「屋根」にスポットを当て、古代から現代まで、著名な建築物の構造を解説しながらその歴史を紐解いていく。専門用語が多く、素人としては意味を理解しながら読み進めるのが正直シンドかったのだが、その労苦に見合った内容の充実度である。
檜皮葺と杮葺きの違い、鎌倉期以降に登場する長大な軒を持つ屋根はいかにして成立したのか、中世城郭から近世城郭への変化、町家と寺社、城郭建築の違い等々、歴史の中で様々な工夫が凝らされ、次第に複雑華麗な建築が可能となっていく過程がなんとも興味深い。これからは、城郭や寺社仏閣等、観光地を訪れた際には真っ先に屋根を見てみようと思う。
登場する建築用語は難解なのだが、一般の人間でも判るように図説入りで丁寧に書いてくれているので、なんとかついていくことはできる。何気なく見ている屋根瓦の下に、見事なまでの力学的な工夫が凝らされており、勾配の絶妙なバランスを保つためには名人の技の限りが傾注されていることが本書を読むとよくわかる。
現代ではこうした日本建築の高度な技術は、需要の減少や、後継者不足など、さまざまな理由により衰退気味なのだという。本書の最終章ではこの点についても言及されており、伝統的な匠の技が失われつつある状況に警鐘を鳴らしている。抜本的な対策は難しいのだろうが、最前線で活躍されている方の、真摯な努力には頭が下がる。
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