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『古代中国の24時間』柿沼陽平 秦漢時代の「ふつうの人々」の日常

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秦漢時代の衣食住から性愛まで

2021年刊行。筆者の柿沼陽平(かきぬまようへい)は1980年生まれの東洋史学者。現在は早稲田大学文学学術院教授。専門は中国古代史・経済史・貨幣史。

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書)

以下の著作がある。『劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』』

  • 『中国古代貨幣経済史研究』
  • 『中国古代の貨幣 お金をめぐる人びとと暮らし』
  • 『中国古代貨幣経済の持続と転換』
  • 『劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』』

この書籍から得られること

  • 古代中国の「ふつうの人々」の暮らしがわかる
  • 古代中国ならではのビックリエピソードを知ることが出来る

内容はこんな感じ

秦漢時代、二千年以上前の中国の人々はどのような暮らしをしていたのか。何を考え、何を望み、何を喜びとして生きてきたのか。食事、身支度、仕事、買い物、人間関係、子育て、宴会、夜の営みに至るまで。古代史に造詣の深い筆者が、膨大な文献の中から解き明かす「古代中国の24時間」。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • プロローグ 冒険の書を開く
  • 序章 古代中国を歩くまえに
  • 第1章 夜明けの風景 午前四から五時頃
  • 第2章 口をすすぎ、髪を整える 午前六時頃
  • 第3章 身支度をととのえる 午前七時頃
  • 第4章 朝食をとる 午前八時頃
  • 第5章 ムラや都市を歩く 午前九時頃
  • 第6章 役所にゆく 午前十時頃
  • 第7章 市場で買い物を楽しむ 午前十一時頃から正午すぎまで
  • 第8章 農作業の風景 午後一時頃
  • 第9章 恋愛、結婚、そして子育て 午後二時頃から四時頃まで
  • 第10章 宴会で酔っ払う 午後四時頃
  • 第11章 歓楽街の悲喜こもごも 午後五時頃
  • 第12章 身近な人々のつながりとイザコザ 午後六時頃
  • 第13章 寝る準備 午後七時頃
  • エピローグ 一日二四時間への道

古代中国の「ふつうの人々」の日常

本書『古代中国の24時間』には、歴史上有名な人物はほとんど登場しない。ごくごく「ふつうの人々」の日常を、朝から晩まで丁寧に追いかけていく。灯火のための燃料が貴重であった時代では朝が早い。人々は日没前から動き出し、日没頃にはその日の活動を終えて眠りに就いてしまう。時間間隔としては、現代人とは3~4時間程度ズレている感じだろうか。

庶民の食事は一日二食。粟、黍、大麦などを食す。火力が乏しいため、炒めたり焼いたりはできず、「煮る」が主要な調理法となる。この時代に下着は存在せず、夏は麻の長着一枚。冬場には綿入れと袴を着用する程度。

宮仕えの官人たちの生活も楽ではない。朝早くから出仕し、下手をすれば何日も家に帰れない。この時代にして、既にブレスケアが大事なエチケットであったようで、鶏舌香なる薫香の使用が奨励されている。秦漢時代には科挙の制度がなく、実力よりも家柄、地縁、コネ、そしてカネがすべてだったというのはなんとも世知辛い。

古代中国の面白エピソード満載

皇帝の吐いた唾を受け止める唾壺の存在と、それを管理する侍中が周囲からは羨望のまなざしで見つめられていたという事実。朝になると宮中で大声で叫び時刻を告げた「鶏人」職の存在。歯を失った老人が乳母を雇う(なんじゃそりゃ)!この時代でもイケメンはモテたし、採用でも優遇される。宴会は夕方前に始まり、日没前には終わる。

トイレは二階建て構造で和式、洋式いずれも存在した。トイレの下層には豚小屋があり人糞を食べるエコシステムが構築されている。トイレはとにかく臭いので、鼻の穴をふさぐための棗の実が用意されていたのだとか。

年間の刑死者は数万人単位。市場の傍には処刑場があり、日常的に死刑が執行されている。妻が姑や舅に暴言を吐いたら斬首。押し込み強盗に入られ、一家皆殺しにされることも珍しくない。

現代からは想像も出来ないような、仰天エピソード満載で、古代中国好きの方であれば、本書で紹介されている事柄は興味深く読むことが出来るのではないだろうか。

「日常史」に光を当てる

とかく歴史の世界では著名な英雄や、大規模な軍事行動、政治制度などにばかり焦点があてられがちだ。歴史に名を残すことがなかった「ふつうの人々」の実態は明らかにされて来なかった。

エピローグによると、筆者は2010年に刊行されたアルベルト・アンジェラの『古代ローマ人の24時間 よみがえる帝都羅馬』の影響を少なからず受けているようだ。

西洋史の分野では日常史に関する研究の積み重ねがなされてきたが、東洋史での日常史研究は未だ発展途上である。であるならば、自身が先鞭をつけねば!ということで書かれたのが本書『古代中国の24時間』だ。

巻末には二十頁にもなる膨大な注記(出典表示)がなされており、本書のために筆者が費やした労力が伺える。

本書の売れ行きは好調で、2/4時点で重版が決まり、発行部数は5万部を突破している。

ルポライター安田峰俊による、柿沼陽平へのインタビュー記事はこちら。

『古代中国の24時間』をより楽しむことが出来るインタビューとなっているのでおススメ。

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