先日、放送大学の面接授業(スクーリング)で、永原恵三先生の「カトリック教会と音楽」を受講してきた。その際に、多少なりとも事前学習ができないか?ということで、本書『キリスト教と音楽』を再読してみた。ということで、本稿もちょっとだけ加筆して再投稿してみる。
キリスト教と音楽の関係を知る
2007年刊行。筆者の金澤正剛(かなざわ まさかた)は1934年生まれの音楽学者、音楽
史研究家。国際基督教大学名誉教授の名誉教授。ルネサンス期の音楽史を主要な研究分野とされている人物で、その筋では大御所、権威といっても良い方。
本書は金澤正剛が各媒体に発表したエッセイや解説文を元に単行本化したものである。
この本で得られること
- 西洋音楽とキリスト教の関係について知ることが出来る
- 西洋の宗教音楽について詳しくなることが出来る
内容はこんな感じ
世界に広く浸透し、国際的なスタンダードとなった西洋音楽。その根底に流れるキリスト教の影響の強さは計り知れない。キリスト教はいかにして音楽をその教えの中に取り込み、人々はどのようにしてそれを受容していったのか。日本人には実感として理解しにくいヨーロッパにおける「常識」をわかりやすい言葉で紹介していく。
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 第1章 キリスト教の礼拝と音楽
- 第2章 教会歴のはなし
- 第3章 礼拝の式次第について
- 第4章 教会とオルガン
- 第5章 クリスマスの音楽
- 第6章 救世主の受難をめぐって
- 第7章 復活祭をめぐって
- 第8章 レクイエムについて
- 第9章 聖母マリアへの賛美
- 第10章 オラトリオの歴史と起源
- あとがき
キリスト教は「歌う宗教」
西洋音楽の源流はキリスト教にある。西洋のクラシック音楽と言えば、コンサートホールで煌びやかに演奏されるオペラや交響曲や、ピアノ曲といった印象が強いが、そんな一般人向けの傾向が強まったのは近代以降のせいぜい数百年のこと。それ以前の遥かに長い間、音楽とは宗教音楽のことであった。世俗の楽曲を楽しめたのは裕福な王侯貴族たちのみ。一般の庶民にとっては、教会で聴くミサの際に演奏される音楽こそが唯一の音楽だったのだ。
キリスト教会において毎日実施されるミサ。特に日曜日のミサには一般の会衆も参加するために規模が大きくなる。キリスト教会は布教にあたって音楽を非常に重要視しており、ミサの形式の中ではかなりの部分を「歌」が占めている。
具体例として永原恵三先生の講義で教えていただいたケルン大聖堂の諸聖人の日(11/1)のミサの動画をご紹介。この荘厳さは凄い。聖歌隊の人数の多さにもビビる。
教会暦の流れがわかる
ちなみにカトリックの教会暦はこんな感じ(地域によってかなり異なるらしい)。一年が待降節(11月後半あたり)から始まるのが特徴的。
- 待降節:降誕祭の4つ前の日曜日から~
- 降誕祭:12/25。キリストの生誕を祝う(実際に生まれた日ではない)。
- 降誕節:12/26からの12日間
- 四旬節:復活祭の前46日間
- 灰の水曜日:四旬節最初の日
- 枝の主日:復活祭直前の日曜日~聖週間
- 聖木曜日:最後の晩餐
- 聖金曜日:キリストの受難
- 聖土曜日:キリストの埋葬
- 復活祭:春分の日を過ぎて最初の満月後、最初の日曜日
- 復活節:復活祭からの50日間
- 王であるキリスト:年間最後の日曜日
カトリック教会ではこうした年間行事のほぼすべてに、内容に則した膨大な楽曲群が用意されており、それらをTPOに応じて使い分ける。本書では、その中でも特に重要な楽曲の数々が紹介されているので、宗教音楽のエントリーガイドとしても楽しむことが出来る。
親しみやすい内容
アヴェマリアを歌うのはカトリックだけとか、イギリスのミサ曲にはキリエが無いとか、そもそもオルガンはキリスト教徒の敵だったとか、興味深い題材のエッセイがたくさん収録されていて楽しい。非信者には判りにくい、キリスト教の諸行事、年間スケジュール、礼拝の式次第などにも言及しているのでその点はありがたい。
主要イベントである、クリスマス、受難節、復活祭について、それぞれの代表楽曲が紹介される。また、後世に多数作曲された「レクイエム」系の作品や、「聖母マリア」に関する楽曲についても、豊富な事例が登場するのでこの点も読んでいて楽しい。
様々な媒体に掲載されていた文章を集大成化した内容だけに、とりとめが無さ過ぎるのが難といえば難ではあるが、その分、バラエティに富んだ内容となっておりとても楽しめた。
金澤正剛の著作はこちらもおススメ
なお、金澤正剛の著作としては、1998年に刊行された『古楽のすすめ』を改訂した2010年の『新版 古楽のすすめ』が、古楽愛好家にはよく読まれている。
また、2020年刊行の『ヨーロッパ音楽の歴史』では、もうすこし広い枠での西洋音楽について知ることが出来る良書。併せておススメである。