戦国バブルの弾けたあとに
2019年刊行。筆者の藤田達生(ふじたたつお)は、三重大学、同大学院の教授で、専攻は日本近世国家成立史の研究。
内容はこんな感じ
安土桃山時代から江戸時代へ。戦乱の続いた時代から太平の世へ。この国の社会基盤は大きな変容を遂げた。徳川幕府はいかなる思想の元に、諸侯たちを支配したのか。家康政権下で外様大名にも関わらず重用された藤堂高虎の足跡をたどりつつ、幕藩体制黎明期に何が起きていたのかを振り返っていく。
藤堂高虎の事例を元に
藤堂高虎は、外様大名でありながら徳川家康に重用された武将で、築城家、外交、軍事と幅広い分野で活躍。最終的には、32万石の大大名にまで躍進を遂げる。
筆者は、三重大学の教授ということもあり、藤堂高虎に関する著作も書いている。それだけに十分な研究史料があるのだろう。本書では、藤堂高虎が治めた、伊勢(津地域)や、伊賀が、江戸期に入りどのような「戦後復興」を行ったのかを紹介していく。娘婿の小堀遠州についてのエピソードも数多く扱っており、藤堂藩好きとしては、かなり嬉しい。
個人的にはもう少しほかの地域の状況も知りたかったところだが、多くの事例を紹介するには新書媒体はあまりにページ数が少ない。これは致し方のないところだろう。
重商主義から農本主義へ
信長、秀吉の時代から、関ヶ原の合戦を経て江戸幕府が誕生する。長きにわたった戦争の時代が終わり、泰平の世が始まるのだ。この時の日本にどんな大転換が起きていたかを考察したのが本書である。
戦争が無くなるため軍備に金をかけずに済むようになり、周辺国に攻められる怖れがなくなるから農地の整備や、都市計画にコストを割くことが出来るようになる。現在の多くの地方主要都市は、この時期に基盤が築かれたとする指摘は非常に興味深い。
中世までの所領は戦国大名の地縁、血縁と幾重にも結びついた「一所懸命の地」であった。しかし、江戸期に入り乱発された国替え(所領の入替え)は、地域との関係性を大きく変えてしまう。国替えについて行けない地侍たちは帰農するしかなく、士農分離が進んでいく。
こうした様々な要素により、戦国武将であった大名家中は、地域社会を管理、運営するための官僚組織へと変貌していくわけである。
大坂幕府構想!
最後にちょっと本筋から離れた話題。今年の1月頃に新聞を賑わした記事がある。
当時の徳川政権には幕府を大坂に置く構想があったのではという、小堀遠州による書状が発見されたのである。小堀遠州は、藤堂高虎の娘婿だが、茶人、築城家としても高名だった人物である。それだけに、十分な信憑性がありそうだが、本書では軽く紹介する程度に終わっている。メインテーマから逸れるので仕方がないのだが、これだけでも一冊本が書けそうではないか。
研究が進んだ段階で、改めて大坂幕府構想の真偽についても、読んでみたいものである。
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