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『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』望月優大 「移民」を認めない国、日本

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在留外国人300万人時代の「移民」事情

2019年刊行。筆者の望月優大(もちづきひろき)は1985年生まれ。日本の移民文化、移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長。

少子高齢化を受けて、日本人の生産者人口が激減する中、飛躍的なペースで増えているのが在留外国人である。1988年に94.1万人であった在留外国人の数は、2018年には263.7万人にまで増大している。三十年でおよそ三倍の増加量である。

しかし日本では、短期的な労働力としての外国人は受け入れるが、「移民」は認めない方針を長らく取り続けている。本書では、島国である日本固有の「移民」事情と、外国人在留者たちが直面しているさまざまな問題について明らかにしていく。

目次はこんな感じ

はじめに 「移民」を否認する国
第1章 「ナショナル」と「グローバル」の狭間
第2章 「遅れてきた移民国家」の実像
第3章 「いわゆる単純労働者」たち
第4章 技能実習生はなぜ「失踪」するのか
第5章 非正規滞在者と「外国人の権利」
第6章 「特定技能」と新たな矛盾
終章 ふたつの日本

日本で働いている外国人はどんな人たちなのかが判る

ここ数年、コンビニや居酒屋で外国籍の方が店員をされているのを目にする機会が、各段に増えていることと思う。しかし彼らが、どのような立場、経緯で日本にやってきているのかを理解している日本人はほとんどいないのではないだろうか。

本書では、日本における外国人労働者が増加し始めた1980年代から、現在に至るまでの受け入れの歴史を紐解いていく。留学生、技能実習生の受け入れから、特定技能枠の創設と、日本人の生産者人口が減少に転じていくのと反比例して、外国労働者がいかに増えて来たのかがよく判るようになっている。

労働力として受け入れても「移民」を認めない国

日本では、技能実習生や、特定技能という名の元に、外国人労働者を受け入れてきているが、彼らは「移民」ではないとされている。期間限定での居住、就労を認めても、彼らが日本に永住するのは、現行制度ではほぼ不可能に近い。 

四方を海に囲まれた島国であるという事情もあるが、これまでの日本は欧米各国に比べると外国人の絶対数が少なく、身近に接する機会も少なかったため、いきなり「移民」を受け入れろと言われても確かに抵抗感を覚える方は多いのだと思う。

欧米各国ではもう何十年も前から、移民対策は深刻な社会問題になっている。こうした海外のニュースを見聞きする度に、なんだか怖いなと思ってしまっている方も多いのではないだろうか。

「移民」の現実を受け入れる時期に来ている

現在の日本の外国人労働者対策は、労働力だけを使い捨てて、永住化を許さない。日本人の中でも経済格差が広がってきている昨今、増加し続ける外国人労働者は、さらにその下の階層として意図的に配置されているのではないかと思えてしまう程である。

しかしながら、日本人の高齢化が進み、働ける人口がドンドン減っていく中で、外国人労働者たちの存在感は増えることこそあれ、減ることはもはや決してないだろう。もはや欠かせない存在となってしまった、外国人労働者たちについて、見えないものとして放置し続けるのは、そろそろ限界になってきているのではないかと思われる。

最後に、本書の終章に書かれた、筆者の言葉を引用しておく。もう他人事に出来る段階はとうに過ぎてしまっていることを、私たちは自覚すべきであろう。

「移民」を否認する国は、「人間」を否認する国である。人間を否認する国とは、社会の中でしか生きられない私たちから社会的な支えを剥奪する国である。社会統合の対象は外国人だけではない。この国に生きるすべての人々が対象だ。

今、目の前にふたつの道があるーー撤退ではなく関与の方へ、周辺化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは「彼ら」の話ではない。これは「私たち」の問題である。

『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』p217~217より