民俗学に興味を持ったら読みたい一冊
1983年刊行。編者は日本民俗学の権威、福田(ふくた)アジオ、宮田登(みやたのぼる)の両名。福田アジオは1941年生まれ、そして宮田登は1936年生まれの民俗学者(2000年に物故)。
1983年と40年も前に刊行された著作だが、わたしが購入したのは2010年の第25刷と、長期に渡って読まれていることがわかる。序文を読む限り、大学の教科書として多くの方が手にして来たのだろう。
かくいうわたしも、2023年に受講した放送大学の面接授業のサブテキストとして本書を手に入れている。この世界では定番の一冊なのかもしれない。
内容はこんな感じ
柳田国男から始まる日本民俗学も、日本人の生活が変わり多様化、多極化の局面を迎え、新たな概説書の登場が待ち望まれていた。旧弊に囚われず、現代の民俗学の世界を総合的に把握できる一冊。民俗学を学びたい人、民俗学とは何か知りたい方、理解を深めたい方に贈る民俗学へのエントリーブック。
目次
本書の構成は以下の通り。
- Ⅰ|空間の民俗:1家と屋敷
- Ⅰ|空間の民俗:2家族生活
- Ⅰ|空間の民俗:3親類と同族
- Ⅰ|空間の民俗:4村落の構成
- Ⅰ|空間の民俗:5耕地と生産
- Ⅰ|空間の民俗:6山と海の生産
- Ⅱ|時間の民俗:7正月と盆
- Ⅱ|時間の民俗:8農耕儀礼
- Ⅱ|時間の民俗:9誕生儀礼
- Ⅱ|時間の民俗:10性と年齢の秩序
- Ⅱ|時間の民俗:11婚姻儀礼
- Ⅱ|時間の民俗:12葬送儀礼
- Ⅱ|時間の民俗:13墓と祖先祭祀
- Ⅲ|心意の民俗:14禁忌と祈願
- Ⅲ|心意の民俗:15氏神と氏子
- Ⅲ|心意の民俗:16神の示現と芸能
- Ⅲ|心意の民俗:17シャーマニズムと予兆
- Ⅲ|心意の民俗:18憑きもの
- Ⅲ|心意の民俗:19寺と仏
- Ⅲ|心意の民俗:20昔話と伝説
- Ⅳ|特論:21過疎と民俗の変貌
- Ⅳ|特論:22都市の民俗
- Ⅳ|特論:23沖縄の民俗
- Ⅳ|特論:24民俗の調査と記録
- Ⅳ|特論:25民俗学研究法
- 重要語句解説
福田アジオ・宮田登/編とあるように、この二人以外の多くの執筆者が存在する。総数なんと23名。概論書を作ってみようという、福田、宮田の呼びかけに答え、当時30代の若手研究者(現在では偉くなっているけど)が数多く参集している。
放送大学の面接授業用に購入した
コロナ禍で時間に余裕が出来たので放送大学に入学してしまったことは以前にも書いた。放送大学は基本は通信講座(放送授業)で、自宅での独習がメインなのだが、これとは別に面接授業、いわゆるスクーリング的な科目も用意されている。
2023年の2学期には民俗学系の科目として宮内貴久(みやうちたかひさ、敬称略、先生ごめんなさい)の「しきたりの民俗学」が開講していたので、かねてからこの分野には興味があったのでさっそく受講してきた次第。この講義では参考書として『日本民俗学概論』が指定されていたのだ。
シラバスはこんな感じ。
- 第1回民俗学の位置づけ
- 第2回国民文化と民族
- 第3回山と海の生産
- 第4回正月と盆
- 第5回誕生儀礼
- 第6回葬送儀礼
- 第7回墓と祖先祭祀
- 第8回まとめ
『日本民俗学概論』の目次と比べていただくと判ると思うのだけれど、半分以上の項目が一致しており、内容的にも同書の内容がかなり登場した。事前予習しておいて良かった~。
民俗学って?
「しきたりの民俗学」では民俗学の基本のキの部分についてまずは学んだ。民俗学はこんな学問。
民俗学:民衆の習わし、民間の風俗・習慣、生活文化の中で伝承されてきた文化。歴史の上層文化(上澄み。歴史に残る部分)ではなく、基層文化(普段の生活。歴史から見えない部分)に目を向ける。
研究対象:社会伝承、経済伝承、生業、衣食住、信仰伝承、儀礼伝承、年中行事、人生儀礼、芸能伝承、口頭伝承、昔話、伝説、都市伝説
空間、時間、そして心意
さて、『日本民俗学概論』の内容紹介に話は戻る。本書は25の章に別れているが、これらは以下の4つの大章に分類されている。
- Ⅰ|空間の民俗
- Ⅱ|時間の民俗
- Ⅲ|心意の民俗
- Ⅳ|特論
まず「空間の民俗」では日本人をとりまく家や土地、家族関係、村落、耕地や山、海などの生産手段に目を向ける。続く「時間の民俗」では盆と正月、農耕儀礼、誕生から成人、結婚、そして葬送、祖先祭祀に至るまでの時間軸に沿った習俗を取り扱う。三つ目の「心意(しんい)の民俗」では、人の心の内側の部分、禁忌、祈願、信仰、神や仏にスポットを当てる。また最後の「特論」では時代の変化によって、変わりつつある最新の(当時)民俗学事情に合わせて、過疎化、都市化について触れ、更に、日本の中でも特異な地位を占める沖縄の民俗についても概観している。
40年も前に書かれている本なので、現代の最新研究から比べると古くなっている部分は相応にあるものと思われる。だが、初学者がまず読む一冊として、全体感を掴むうえで多いに有益であったと考える。せっかくなので民俗学の入門書をあつ数冊読んでみるつもり。
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