「仮想的有能感」の正体とは?
2006年刊行。講談社現代新書。筆者の速水敏彦(はやみずとしひこ)は1947年生まれ。名古屋大学大学院教育学研究科の教授。
最近すぐ怒る人が増えた。ちょっとしたことで駅員に激怒しているオッサン。原因は電車が来るのが数分遅れたとか、誰かの肩が当たったとか些末なことばかり。それから飲食店で過剰に自分の要求を通そうとして、見苦しいくらいまでに店員を罵倒している人もよく見かける。周りがドン引きするくらい。確かに現代人は些細な事で怒りすぎなのかもしれない。
おススメ度、こんな方に読んでいただきたい!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
最近の日本人は怒りっぽくなったのでは?と思っている方、近頃の自分は怒りの沸点が低くなったと思っている方、根拠のない万能感の正体は何なのか知りたい方におススメ。
内容はこんな感じ
些細な行動や一言が、意外にも人を傷つけ、憎悪や怒りをかき立ててしまうことがある。そしてニートの増加が深刻な社会問題となりつつある。覇気が無くやる気にも乏しい彼らには、他者を見下し軽視することで自らの尊厳を保とうとする傾向があるように思える。「仮想的有能感」の存在を提示しながら、現代日本人の感情の変化について読み解いていく。
目次
本書の構成は以下の通り
- 第1章 感情が変わった
- 第2章 やる気が低下する若者たち
- 第3章 他者を軽視する人々
- 第4章 自己肯定感を求めて
- 第5章 人々の心に潜む仮想的有能感
- 第6章 自分に満足できない人・できる人
- 第7章 日本人の心はどうなるか
「承認」の機会が減り自尊心が満たされなくなる
社会的な事には無関心。でも自らの尊厳を冒されることには敏感な最近の若者。その上会社組織、地縁社会が崩壊したことで、他者から「承認」される機会が減った。若者の自尊心は満たされることがない。そこで他者を軽視し、確たる実績の無い仮想的な有能感に浸ることで、自らの自尊感情を満足させているのではないかという仮説を筆者は提唱している。
仮説の域を出ていない
着眼点は決して悪く無いと思うのだけど、三浦展の『下流社会』あたりと同様に、論拠としているデータが少ないし、あくまでも仮説の域を出ていないように思える。本書を読んだとき、比較的若い方が書かれているのかなと思ったのだが、よくよく見てみると筆者は1947年生まれ。思っていたより年配の人で驚かされた記憶がある。
枚数の制限はあるにしても、もう少し説得力のあるデータを集めてくるべきだろう。思いつきレベル。よくある「年寄りの若い者批判」の域を出ていないのでは?というのが正直な所感である。
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