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『小さな藩の奇跡 伊予小松藩会所日記を読む』増川宏一 小藩が残した日常の記録

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一万石の小藩が残した150年間の記録

2001年の本書刊行当時、わたしは夏の旅行で松山を訪れていた。銀天街の書店にて手書きポップの威力に負け購入してしまった一冊がコレ。ご当地ものには弱いのだ。

本書は、伊予小松藩(現在の愛媛県西条市小松町)に残されていた会所日記を北村六合光(きたむらくにてる)が解読。それを元に、主要な事件を増川宏一が抜粋し紹介したものである。

筆者の増川宏一は1930年生まれ。在野の歴史研究家で賭博、将棋、囲碁など、遊戯史についての著書が多い。

2016年に角川ソフィア文庫より、文庫版が登場している。良書なので、文庫化は喜ばしい限り。

内容はこんな感じ

四国伊予の小松藩は一万石。大名としては最下級の石高で城はなく、正式な武士は僅かに数十人、領民は約一万人。過酷な幕藩体制の中で、これといった不始末もなく、幕末まで命脈を保った小藩に残された会所日記。150年に渡って書き綴られた膨大な史料から浮かび上がる当時の人々の生活。武士と領民それぞれの暮らしを会所日記を通じて明らかにしていく。

藩に馬が一頭しかいない!

伊予小松藩は一柳氏が治めた藩で、国替えの多かった江戸時代にあっては珍しく、幕末まで藩主家が変らなかった。伊予の国は四国の他三国と違って領内が多くの小藩と天領によって分割されていた。その中でもとりわけ小さな藩だったのがこの小松藩である。なにせ幕末に外国船打ち払いのために兵馬を出さなきゃならなくなった時に、藩で所持していた馬がたったの一頭しかいなかったという、あまりに痛ましい記述があるのだ。

江戸時代の人の営みが味わえる

幕末あたりになるとさすがに戊辰戦争に巻き込まれたりといった記述も出てくるが、それまでのほとんどは平穏な日常の記録である。物盗りや、不倫に情死、食卓の風景、時には減俸もあって禄が減らされたりと、時代は変われど人間の営みの根っこの部分は変わらないのだなと、なんとも感慨深い思いを抱かされる。

小藩ならではの生々しいエピソードの数々は実に新鮮だった。こういう話を聞くとものすごくワクワクする。僅か200ページ足らずで終わってしまうのが新書とはいえ惜しい。

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