ビズショカ(ビジネスの書架)

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『無理ゲー社会』橘玲 メリトクラシー(能力主義)がもたらす格差社会

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攻略不可能(無理ゲー)な社会に生きていないか?

2021年刊行。筆者の橘玲(たちばなあきら)は1959年生まれ。もともとは宝島社の編集者で、後に作家に転身。2002年の小説『マネーロンダリング』がデビュー作。小説以外の作品も多数執筆しており、再三改版されている『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が初期の代表作となっている。

無理ゲー社会(小学館新書)

最近の著作では、新書大賞を受賞した『言ってはいけない—残酷すぎる真実』や、『上級国民/下級国民』あたりが有名だろうか。後者は当ブログでも以前に紹介しているので気になる方は是非。

この書籍から得られること

  • メリトクラシー(能力至上主義)による格差社会がどうして生まれたかがわかる
  • 経済格差と性愛格差がなぜ生まれるのかがわかる
  • 格差解消に向けてどんな施策が考えられているのかがわかる

内容はこんな感じ

わたしたちは攻略不可能なゲーム(無理ゲー)に、強制的に参加させられているのではないか?誰もが「自分らしく生きる」リベラルな社会は、過酷な自己責任の社会でもある。しかし、競争の条件は果たして公平に設定されているだろうか?現代の世界を分断する、メリトクラシー(能力至上主義)の実態に迫る一冊。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに 「苦しまずに自殺する権利」を求める若者たち
  • PART1 「自分らしく生きる」という呪い
  • 1 『君の名は。』と特攻
  • 2 「自分さがし」という新たな世界宗教
  • PART2 知能格差社会
  • 3 メリトクラシーのディストピア
  • 4 遺伝ガチャで人生が決まるのか?
  • PART3 経済格差と性愛格差
  • 5 絶望から陰謀が生まれるとき
  • 6 「神」になった「非モテ」のテロリスト
  • PART4 ユートピアを探して
  • 7 「資本主義」は夢を実現するシステム
  • 8 「よりよい世界」をつくる方法
  • エピローグ 「評判格差社会」という無理ゲー
  • あとがき 才能ある者にとってはユートピア、それ以外にとってはディストピア

ベースの内容は『上級国民/下級国民』と同じ

本書で書かれている内容は、基本的には過去作である『上級国民/下級国民』から変わっていない。『上級国民/下級国民』での筆者の主張をまとめると以下のようになる。

  1. マジョリティである団塊の世代が、他の世代の富を奪っている
  2. モテ非モテによる性愛の格差
  3. 誰もが自己実現出来る世界は、能力主義の裏返し

『上級国民/下級国民』橘玲 日本に分断をもたらした三つの要素 - ビズショカ(ビジネスの書架)より

橘玲は、タイトル付けのセンスが抜群で、時流を捉えたテーマ選定がとても巧みな作家だと認識している。最近話題になった、マイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』についても積極的に言及がなされており、マーケティング力が高いなあという印象を強く受ける。DaiGo的な、他者の知識をいい感じにコラージュする上手さがある。

メリトクラシー(能力主義)は知能による専制

本書『無理ゲー社会』で、再度、筆者が主張しているのは、メリトクラシー(能力主義)の蔓延による社会の分断だ。かつては生まれながらの属性(出身階層、地域、性別)で、人々の将来が決まっていた。しかしリベラリズム思想が浸透することで、属性で人を振り分けるのは望ましくない、との考え方が一般化する。

属性で分けることは差別になる。属性に替わって登場したのが能力主義だ。能力は努力でカバーできる。よって、能力によって獲得された、学歴、資格、経験の有無が、人々の将来を決定づけていく。成功したは人間は努力したからで、成功できない人間は努力をしていないから。成功できないのは、能力的に劣っているからだ。これがメリトクラシーの残酷な世界観である。

それではどうすればいいのか

『無理ゲー社会』で示されるメリトクラシーの世界は暗澹たるものだ。このまま格差は広がっていく一方なのか。対策はないのだろうか。本書の最終章「「よりよい世界」をつくる方法」では、現在、世界で検討されている格差解消のための施策がいくつか紹介されている。

収入や資産にかかわらず、全員一律に毎月一定額を支給する「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」や、政府による雇用保障「最後の雇い手」、巨額の資産を持つ層にのみ課される「超富裕税」、労働市場から排除されてしまった人々を救済するための「積極的雇用政策」、デジタル通貨を使った「負の所得税」、所有からレンタルへ、財産の在り方を問い直す「共同所有自己申告税(COS)」などのプランが紹介される。

最後に紹介された「共同所有自己申告税(COS)」などは、共産主義的な思想を内包している。この点、以前に読んだ斎藤幸平の『人新生の「資本論」』での主張にも通じる点があり、興味深く感じた。

ただ、筆者は100年も前に書かれた『資本論』の再評価よりは、現代の高度化、グローバル化された知識社会、資本主義経済に適した「新しい共産主義」の必要性を説いている。

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