知財の専門家が書いた学校著作権の本
2021年刊行。筆者の宮武久佳(みやたけひさよし)は1957年生まれ。共同通信の記者、デスクを経て、横浜国立大学の教授に。現在は東京理科大学教養教育研究院の教授。記者から大学教授に転身された方。もう一人の筆者、大塚大(おおつかだい)は1966年生まれの行政書士。駒沢公園行政書士事務所所属。いずれも知財の分野に強い専門性を持つ人物。
内容はこんな感じ
ネットが当たり前の時代になって久しい。日々発展する技術の中で著作権の扱いも変わっていく。改正された2021年の著作権法第35条に対応。授業の中での著作物はどこまで利用が許されているのか?著作物のコピーや動画の作成、オンラインでの授業について、許諾や対価はどうなっているのか?届け出は必要なのか?学校現場でのさまざまな利用シーンに対応した著作権のハンドブックが登場。
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 凡例
- 序章 オンライン授業と変更された教育現場の著作権ルール
- 第1部 5分でわかる著作権の基礎知識
- 第2部 著作権の常識・非常識
- 第3部 著作権なるほどコラム
- おわりに
- 巻末資料
- 索引
著作権の制限事項
著作権では、著作者の権利を守るためのさまざまな規定が明記されている。我々一般人が著作物を利用する場合、本来は著作者の許諾を得る必要があり、加えて相応の対価を支払わなくてはならない。だが、著作権法には制限事項というものがあって、特定の条件下では、著作者の権利が制限される。
例えば自宅で使うために書籍の一部をコピーしたり、自分で聴くためにCD音源をリッピングしたりするのは著作者に許諾を得る必要はなく自由にできる。適正な範囲ではあればブログなどで著作物を引用として用いることも許されている。
その他、著作権の制限事項は、ざっと挙げてみるとこんなにたくさんある。
- 私的使用のための複製(第30条)
- 付随対象著作物の利用(第30条の2)
- 検討の過程における利用(第30条の3)
- 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4)
- 図書館等における複製・インターネット送信等(第31条第1項)
- 国立国会図書館における蔵書等の電子化、インターネット送信等(第31条第8項)
- 引用・転載(第32条)
- 教科用図書等への掲載(第33条)
- 教科用図書代替教材への掲載等(第33条の2)
- 教科用拡大図書等の作成のための複製等(第33条の3)
- 学校教育番組の放送等(第34条)
- 学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達(第35条)
- 試験問題としての複製等(第36条)
- 視覚障害者等のための複製等(第37条)
- 聴覚障害者等のための複製等(第37条の2)
- 営利を目的としない上演・演奏・上映・口述等(第38条)
- 時事問題に関する論説の転載等(第39条)
- 政治上の演説等の利用(第40条)
- 時事の事件の報道のための利用(第41条)
- 裁判手続等における複製等(第41条の2)
- 立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等(第42条)
- 審査等の手続における複製(第42条の2)
- 情報公開法等による開示のための利用(第42条の3)
- 公文書管理法等による保存等のための利用(第42条の4)
- 国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製(第43条)
- 放送事業者等による一時的固定(第44条)
- 美術または写真の著作物の原作品の所有者による展示(第45条)
- 屋外設置の美術の著作物、建築の著作物の利用(第46条)
- 美術または写真の著作物等の展示に伴う解説・紹介のための利用(第47条)
- 美術の著作物等の譲渡の申出に伴う複製等(第47条の2)
- プログラムの著作物の所有者による複製等(第47条の3)
- 電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(第47条の4)
- 翻訳、翻案等による利用(第47条の6)
学校現場に特化した著作権本
本書では数ある著作権法の制限事項の中でも、第35条の「学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達」に特化して、さまざまなケースを紹介している。教育の場では何が許されて、何がダメなのか。127もの具体例と共に解説されているので、教師や学生の方、保護者の方にはお役立ちの一冊だ。
昨今インターネットの発達によって、以前では考えられなかった著作物の利用シーンが増えている。著作物をメールで送ったり、ネットにアップしたり。授業を動画で配信したり、リアルタイム中継したりと、いずれも昭和の時代では想像も出来なかった使い方だ。こうした新しい技術に対して、2021年からの新しい著作権法第35条が対応している(それでも後手後手の対応ではあるのだが)。
本書で取り上げられている事例をいくつか紹介してみるとこんな感じ。
- 授業の様子をネットで自宅の児童に送信したい
- ネットを使った遠隔交流授業で新聞記事などを使いたい
- テレビ番組の一部をストリーミング配信したい
- ドリルをスキャンして児童にメールで送信したい
- 新聞に掲載された生徒の投書をホームページに載せたい
教育の現場では、通常の利用とくらべて著作権の利用に大幅な自由度があり、意外に出来ることが多い。新しい35条で導入された「授業目的公衆送信補償金制度」では、年間で一定の費用(小学校120円、中学校180円、高校420円、大学720円、いずれも一人当たり)を、文化庁指定管理団体の「授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS:サートラス)」支払うことで、著作物のメール送信、リアルタイム配信などが著作者の許諾なしで行えるようになっている。SARTRASを通じて、集められた補償金が著作者に再分配される形だ。この仕組みは初めて知った。JASRACの教育現場版みたいなものだろうか?
大塚大先生には放送大学の講義でお世話になりました
ちなみに、本書を手に取ったきっかけは、放送大学の面接授業(スクーリングみたいなもの)「著作権概論」で、著者のひとりである大塚大先生の講義を受講したことによる。この講義の授業テーマはこんな感じだった。
- 第1回イントロダクション(導入)
- 第2回知的財産権総論(産業財産権、著作権、民法との対比)
- 第3回著作権概論
- 第4回判例検討1
- 第5回判例検討2
- 第6回映画の著作物その他
- 第7回契約実務1
- 第8回契約実務2(演習)
著作権についての凡例紹介と、後半の契約実務編が面白かった。放送大学の学生の多くは社会人で、著作権業務に関連している方が多数出席しているのも興味深かった。契約実務編だけ拡大して、ひとつの講義にしても十分話が持ちそうだなと感じた。
放送大学の面接授業は、1講義90分の授業が全8回で6,000円(税込み)と破格の安さなので、気になる方はこちらの概要をチェックしてみた頂きたい。全国で膨大な数の講義が開催されているので、きっとあなたのニーズにあった講義が見つかるはずだ。