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『徒然草』兼好・島内裕子訳/校訂 日本三大随筆のひとつを現代語訳と併せて通読できる

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あけましておめでとうございます。

今週のお題「2024こんな年だった・2025こんな年にしたい」に便乗。

昨年は大河ドラマの影響で、平安時代や日本の古典文学に沼った一年だった。その影響は今年も続く予定。その一環として、本日はこちらの作品をご紹介したい。

島内裕子訳による『徒然草』

2010年刊行。兼好(けんこう)による『徒然草(つれづれぐさ)』の原文と共に、現代語訳を併録、更に詳細な解説を施したもの。ちくま学芸文庫から刊行されている。

兼好は出家後の呼び名。俗名は卜部兼好(うらべのかねよし/うらべのけんこう)。鎌倉時代末期に生まれ、室町時代前期の南北朝の頃に活躍していた歌人、随筆家。詳細な生没年は分かっていない。兼好法師、吉田兼好とも称される。

現代語訳及び、校訂を行った島内裕子(しまうちゆうこ)は1953年生まれの国文学者。『徒然草』研究の権威のひとりとして知られている。長らく放送大学の教授職に在ったが、2024年の3月で定年のため退官されている。

徒然草 (ちくま学芸文庫)

私は現在、放送大学で島内裕子先生の『『方丈記』と『徒然草』』を履修しており、学習の一環として購入した次第。島内先生の動画による講義はわかりやすく、着眼点も興味深いので個人的におススメ。ゆかりの地を実際に訪れた実地レポートも多数収録されていて、見ているだけでも楽しいのだ。

以下は講義のテキスト(放送大学的には印刷教材という)。

内容はこんな感じ

日本三大随筆のひとつとして名高い『徒然草』。室町時代前期に活躍した兼好が、徒然なるままに書き記した全二百四十三段の「よしなしごと」は、江戸期になって大流行し多くの人々に読まれるようになった。本書では『徒然草』についての数々の研究、著作で知られる島内裕子がその全文を現代語訳し、更に詳細な評をすべての段に書き下ろす。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに
  • 凡例
  • 序段~第二百四十三段
  • 徒然草を生きた人々
  • 解説

※序段~第二百四十三段の部分は、実際には段ごとにわかれて目次が付されているが、全部書くと物凄い長さになってしまうので省略している。

本書の特徴

『徒然草』の現代語訳や、解説本は古今、多数世に出ている。校訂者によると、心がけたのは以下の二点であるとのこと。

  • 出来る限り漢字を宛て、ルビを多く振った

古文初学者としては、この時代の文章は同じ日本語とはいっても難解で、容易に読み解けるものではない。それだけに、漢字や、ルビがあたっていることで格段に意味が取りやすくなる。

  • 読点をかなり多く打った

これによって原文の文章構造がつかみやすくなり、構文が明確になるとしている。原文に入っていない読点をわざわざ入れるというのだから、これは解釈にも繋がる話だ。相当に高度な作業ではないだろうか。

また、本書の構成だが、各段ごとに、

本文→用語解説(これはない場合もある)→現代文訳→評

といった、順番になっている。まずは本文を読ませて、分からない用語があれば解説。続いて現代文訳を示し、最後に解説が入る。各段ごとに分かれているので、本文を読んだら即座に現代文が読めるようになっているので、戻って読み返すのも容易で、これはありがたいと感じた。そして訳文は非常に充実しており、本文をはるかに上回る突っ込んだ内容で、この原文からそこまで汲み取ることができるのかと驚嘆させられた。

『徒然草』受容史

本文もさることながら、この作品では巻末にある島内裕子による解説が面白い。本文を読む前にこちらを先に読んだ方が実は理解が深まるかもしれない。特に興味深いのは『徒然草』がいかにして受容されてきたかの部分だ。

室町時代の初期に成立していたとされる『徒然草』だが、書かれた当時は全く読まれなかった。脚光を浴び始めるのは書かれてから一世紀を経た十五世紀の半ばくらいから。まずは洗練された美意識の現れとして受け止められ、江戸期に入ると教訓の書として重宝される。江戸時代は木版による印刷技術が発達したので、より多くの読者に本が届くようになった。浄瑠璃や浮世草子などの二次創作本や、注釈書もたくさん書かれている。明治に入ってからは古典の入門書として学校教材で頻繁に取り上げられるようになる。古文の時間に『徒然草』を学んだ方も多いのではないだろうか。

『徒然草』のここが好き!

『徒然草』で何が良いといって、まずは格調高い序文である。

徒然なるままに、日暮らし、硯に向かいて、心にうつりゆく由無し事を、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。

『徒然草』兼好・島内裕子訳/校訂p17より

特に「あやしうこそ物狂ほしけれ」の部分が、どうしようもなく好きだったりする。わたし的にはこのフレーズを、オタクが自分の傾倒するジャンルで、語り倒したい何かを見つけてしまった時のような、ワクワクして自制の効かないときめきモードと認識している(古文的にはたぶん違う)。日常会話でなかなか使う機会はないが、一度口に出してみたい言葉である。

それから好きなのが、不思議な話系。たとえば第40段の「因幡の国の栗しか食べない娘」の話。この子がその後どうなったのか気になる。また、第68段の「大根が大好きで毎日食べていたら、絶対絶命のピンチで大根の精霊」が助けに来てくれた話も、振り切れていて好き。これらの話は、江戸時代にファンアートが書かれるくらい人気があった。

これからも読み返すことになりそう

『徒然草』の全文を最初から最後まで読む機会はそうそうないだけに、今回初めて全文を読み通すことができて、とても大きな達成感を得ることができた。とはいえ、今回は本当のざっと通読しただけなので、最初に書いた『『方丈記』と『徒然草』』の講義を通じて、更に学びを深めていくつもり。

江戸時代には教訓の書として親しまれていただけに、『徒然草』には人生の機微に通じた味わい深い内容が多数含まれている。人と人との関係性について(第12段)、時の流れの移ろいについて(第25段)、いまこの瞬間の大切さ(第92段)、死に際はどうあるべきか(第143段)、若さゆえの過ちと年寄りの分別(第172段)、人はいかに生きるべきか(第241段)などなど、これらの段はこれからも繰り返し読んでいくことになりそうだ。

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