中公新書を歴史系から10冊セレクト
中公新書は、岩波新書、講談社現代新書と共に「新書御三家」として名高い。1962年創刊ということで、来年で創刊60周年を迎える老舗レーベルである。
さて、本日ははてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選」に便乗。
なにか書けることはないかなと本棚を眺めていたら、中公新書の棚に目が留まったので、これまでに読んだ中公新書の中で、特におススメの10冊をセレクトしてみた。
基本、今回は歴史系のみだ(他ジャンルまで含めると10冊に絞るのが難しい)。日本史系から五冊、世界史系から五冊をざっくりご紹介していきたい。
- 中公新書を歴史系から10冊セレクト
- 亀田俊和『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』
- 榎村寛之『斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史』
- 馬部隆弘『椿井文書 日本最大級の偽文書の正体』
- 石井良助『江戸の刑罰』
- 原田 多加司『屋根の日本史 職人が案内する古建築の魅力』
- 阿部謹也『刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活』
- 度会好一『ヴィクトリア朝の性と結婚 性をめぐる26の神話』
- 岡田温司『マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女』
- 平野敬一 『マザー・グースの唄 イギリスの伝統童謡』
- 野村啓介『ナポレオン四代』
- まだまだあると思うので良書を教えて欲しい!
まずは日本史編から。
亀田俊和『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』
呉座勇一の『応仁の乱』の大ヒット以来、室町モノの書籍の刊行が増えた。室町時代フリークとしては嬉しい限り。一連の室町モノの中では、本書が一番好き。
室町幕府創建者の足利尊氏と、弟の足利直義。この二人の骨肉の争いの顛末を描いた作品。大河ドラマの『太平記』大好きっ子なので、この本は本当に哀しくも切なく読んだ。尊氏と直義は、兄弟仲は決して悪くはなかった思うんだよね。
中公新書はこのあたりから、比較的マイナーな「ニッチな戦史」モノを取り上げる機会が増えているような気がして、その点でも嬉しい。
榎村寛之『斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史』
斎宮(さいぐう)とは、斎王の御所。そして斎王とはこんな人たち。
伊勢神宮または賀茂神社に巫女として奉仕した未婚の内親王(親王宣下を受けた天皇の皇女)または女王(親王宣下を受けていない天皇の皇女、あるいは親王の王女)。
斎王に選ばれるのはいちおう名誉ではある。しかし若い身空で結婚も出来ず、いつ都に帰れるかもわからない。孤独な生活を強いられる辛いお役目なのである。
本書は、古代から14世紀前半まで、歴史上七十余人を数える、歴代斎王のうち、特に著名な方たちを取り上げて紹介していく。書き手の斎王愛がひしひしと伝わってくる良書だったりする。
馬部隆弘『椿井文書 日本最大級の偽文書の正体』
昨年出たばかりの比較的最近の中公新書。
江戸時代に意図的に大量生産された偽文書「椿井文書(つばいもんじょ)」の謎に迫った一冊。江戸時代後期、山城国の住人、椿井政孝(つばいまさたか)は、豊富な歴史知識をもとに、地域住民の求めに応じては、無数の歴史史料の偽造、捏造を続けていた。こうした偽文書は、諸地域の由緒や、境界争いなどの際に、証拠として用いられたのだとか。
「椿井文書」は現代にまで残り、地域史の典拠にまでなってしまい、各地で大きな問題となっているらしい。町おこしのネタに使われている事例もあるのだとか。
石井良助『江戸の刑罰』
1964年刊行とかなーり古め。最初期の中公新書と言えるかな。わたしが持っているのは1996年の第55版(めっちゃ売れてる)。
江戸時代に行われていた、刑罰についてまとめたもの。図版が多く、その刑罰の残虐さが際立つ。畳一枚に18人が詰め込まれていた!とか、入牢してきた元目明しに、椀三杯の人糞が振舞われるとか、江戸時代に生まれなくて良かったと、心から思える驚愕のエピソードが目白押しなのであった。
原田 多加司『屋根の日本史 職人が案内する古建築の魅力』
現役の屋根職人が語る、日本建築の魅力の数々。
建造物の「屋根」に注目したところがポイント。飛鳥時代から江戸時代まで。町屋や寺社、城郭建築の特徴や、時代による変遷について知ることが出来る。技術が進歩するにしたがって、より巨大で、より壮麗で、より複雑な建物が作られるようになっていく。写真や、図版も多いので、目で見て楽しむ要素もあって楽しい。
ここからは世界史編。
阿部謹也『刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活』
名作『ハーメルンの笛吹き男』(ミステリ的に読んでも楽しい)の、阿部謹也センセ(個人的に大ファンなのだ)作品。刑吏から読み解く西欧中世史。先ほど紹介した『江戸の刑罰』の西洋版的な趣きの一冊。
古代においては神聖な側面もあった処刑という行為は、中世に入ると蔑視の対象となっていく。死刑執行人、刑吏の存在は、都市にとって欠かせない存在であったにもかかわらず、賤民として貶められ差別されたのである。
度会好一『ヴィクトリア朝の性と結婚 性をめぐる26の神話』
性に対してきわめて抑圧的であったとされる、19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝時代。この時代の性にまつわる26の「神話」を読み解いていく一冊。
婚前妊娠。未婚の母。避妊と堕胎。身分を超えた結婚。結婚は解消できない。自然に反する罪。母乳信仰。現代の魔窟(バビロン)ロンドン。などなど、この国、この時代ならではの性意識、性規範について、当時の日記や新聞記事を読み解きつつ迫っていくスタイル。ヴィクトリア朝時代のイギリスが好きな方なら楽しめるのではないかと。
岡田温司『マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女』
聖書に登場する女性の中では、聖母マリアに次ぐ知名度を誇るのではないかと思われる、マグダラのマリア。しかし、マグダラのマリアがどんな人物であったかを説明できる方は少ないはずだ。
実際、聖書中でのマグダラのマリアに関する記述は少ない。古代以降、さまざまな時代時代の「マグダラのマリア」像が重ねられていった結果、「貞節だけど淫らで、美しくて敬虔」となんだかよくわからない人物像が形成されてしまったのだという。
本書では絵画に描かれた、様々な「マグダラのマリア」像が登場し、その多彩な属性について知ることできる。
平野敬一 『マザー・グースの唄 イギリスの伝統童謡』
こちらも1972年刊行と、初期の時代の中公新書である。わたしが持っているのは1995年の第40版(これも売れてる!)。
西洋の小説を読んでいると、ごくごく当たり前にマザー・グースが引用されることがあり、少しでもこの世界について学びたいと思って手に取ったのがきっかけ。
「ロンドン・ブリッジ」「ハンプティ・ダンプティ」「テン・リトル」など、日本人のわたしでも知っているような超有名タイトルの邦訳と英文表記、更にその読み解き方が載っていて意外に重宝する。
野村啓介『ナポレオン四代』
史上あまりに有名なナポレオン一世。そして、第二帝政を担ったナポレオン三世。
よく知られているこの二人だけではなく、ナポレオン一世の子、ナポレオン二世(ローマ王、ライヒシュタット公爵)や、ナポレオン三世の子、ナポレオン四世(ナポレオン・ウジェーヌ・ルイ・ボナパルト)についても、かなりのページ数を割いて紹介されている点が興味深い。
現代でもナポレオンの末裔は健在で、七世がフランスの下院選に出馬したりもしているようだ(落選したらしいが)。
まだまだあると思うので良書を教えて欲しい!
以上、「好きな中公新書10選」を歴史系縛りでピックアップしてみた。
あくまでもわたしが読んだ本の中での10選なので、「なんであの本がないの!」とか、「あの名著を選ばないなんてありえない!」なんてツッコミも当然あると思う。
なので、面白い中公新書(特に歴史系)をご存じの方は、ぜひ教えていただきたい!読んで、また感想をブログに上げたいと思うので、よろしくお願いいたします。