400年続いた奴隷貿易の歴史
2019年刊行。筆者の布留川正博(ふるかわまさひろ)は1950年生まれ。現在は同志社大学経済学部の教授。専攻は大西洋の奴隷貿易史、近代奴隷制史。
専門書、それも共著が数作。一般人向けの著作はほとんどない。本書が初めてかも。
内容はこんな感じ
大西洋を舞台に400年間にわたって続いた奴隷貿易。奴隷として連れ去られた犠牲者の数は1,000万人を超える。奴隷貿易は如何にして始まり、どのような人々によって運営されたのか。奴隷たちが置かれた過酷な環境と、奴隷を運んだ人々の実情。そして19世紀に入ってからの奴隷制廃止への動きを概説していく。
奴隷貿易の巨大データベースTSTD2
奴隷貿易は世界各国で行われてきた。各国に散逸していた奴隷貿易に関する史料が、現在ではTSTD2(Transatlantic Slave Trade Databaseの略称)と呼ばれるデータベースにまとめられている。これによって、奴隷貿易に従事した船舶、船長名、奴隷の数、航海日数、死亡者数、奴隷反乱の数に至るまで、事細かに判るようになっている。
グローバル化に伴い、各国の歴史家間での協力体制が進んでいるわけである。これで各年代、各国別に同じ指標で比較が出来るのだ。
アフリカの現地王国が奴隷を供給していた
奴隷貿易を行ったのは主として西欧人だが、彼らに奴隷を供給していたのは、アフリカ現地の黒人王国である。本書では17世紀末から黄金海岸で奴隷を供給していたアシャンティ王国の例を挙げ、債務奴隷や戦争捕虜、貢納による奴隷や、誘拐、犯罪者、さまざまな方法で奴隷が「調達」されていたことを示す。被害者の側面ばかりが強調されがちな、アフリカの人々だが、加害者となった層も存在したわけである。
航海中の高い死亡率
また、本書ではイギリスの奴隷船ブルックス号の複数回の航海結果から、航海中の高い死亡率が示される。少ない時でも3%、多い時には14%もの奴隷が航海の途中で命を失っている。
ブルックス号での奴隷運搬状況は、wikipedia先生に画像あったので引用させて頂く。本当にこれはひどい。
奴隷船 - Wikipediaより
奴隷貿易は廃止されたが
19世紀に入り、人道的な見地から奴隷貿易は廃止へと向かう。しかしこれは、「移民」と名前を変えた新たな奴隷階層の誕生をも意味していた。
また、奴隷の供給源であったアフリカの現地王国は、奴隷貿易廃止を高らかに謳う西欧諸国により武力制圧され、やがて植民地化されていく。帝国主義時代の列強諸国はホントに酷い。
奴隷制は結局現代に至っても名前を変えて存続し、完全な根絶には至っていない。最新の研究では、4,580万人もの人々が奴隷的な環境下での労働を強いられているとされる。
最後に筆者は、19世紀末の奴隷貿易廃止運動が、消費者による砂糖不買運動を端緒に盛り上がったことを挙げ、現代の奴隷制に対しても民間レベルで監視の目を光らせ、反対の声を上げていくことが大切であると説く。
わたしたち、ひとりひとりに出来ることは多くはないのかもしれないが、輸入品はフェアトレード認証製品から優先して購入する。くらいのことは出来るだろうか。
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