ミスや失敗をその後の飛躍につなげる方法
仕事にミスや失敗はつきものである。ミスや失敗は度重なれば、上司の評価も下がるし、職場での地位も危うくなってくるだろう。
しかし、ミスや失敗をしても、不思議と評価が下がらない。むしろ、ミスや失敗をしても逆に評価が上がっていくタイプの人間が時として存在する。こうした人々は、いったい何をしているのだろうか?
そんな疑問に答えてくれるのが、飯野謙次(いいのけんじ)の『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』である。
本書の趣旨はこちら。
- 第一の結論:ミスや失敗はどんなに対策をしても起きてしまう
- 第二の結論:起こってしまったミスや失敗は、その扱い方次第で身を滅ぼすものになり得るが、反対に飛躍のきっかけになる。
この書籍から得られること
- ミスや失敗を飛躍の糧に転換することが出来る
- 仕事の「スピード」「質」「評価」を最大化する方法を知ることが出来る
- ミスや失敗に対してのメンタルの備えを得ることが出来る
筆者プロフィール
筆者の飯野謙次は1959年生まれ。東京大学大学院の修士課程修了後、General Electric(GE)の原子力発電部門に入社。その後スタンフォード大学で博士号を取得。その後起業し独立。現在は特定非営利活動法人失敗学会副会長を務めている人物である。
2017年に刊行された『仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?』(Kindle Unlimited対応作品) は累計7万部のヒット作となり、一時期話題になったのでご存じの方も多いのでは?
内容はこんな感じ
転んでも、"ただ"では起きるな。ミスや失敗を繰り返して周囲からの評価を下げていく人がいる。一方で、それを糧として成長につなげていく人もいる。両者の違いはどこにあるのか。「やばい!!」「しまった!!」を最高のチャンスに変える仕組み。ミスや失敗への「正しい対処」の仕方を、失敗学の権威が解説する。
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 1章 ミスしてしまったとき、「評価される人」はこう対処する
- 2章 だから乗り越えた先に「急成長」が待っている
- 3章 問題点をピンポイントで見抜く
- 4章 「圧倒的な結果」を生み出す「計画の質」の高め方
- 5章 「何歳になっても成長し続ける人」は何が違うのか
- 6章 仕事をスピードアップでき、関係性までよくなる「伝え方」
- 7章 「どんなにうっかり者でも、うっかりできない」仕組みをつくる
- 8章 なぜ「ミスを正しくシェアする」だけであなたの評価が上がるのか?
- 巻末付録 ミスや失敗を評価につなげるための10のマインド
ミスしてしまったらどうする?
筆者はミスや「失敗から学びを得る3ステップ」として、以下を挙げている。
- 冷静になる
まずは落ち着くことから。ファーストリアクションは重要だ。焦って、余計なことをしない、言わない。
- 「自分が」という気持ちを捨てる
バレる前に自分だけで解決できないか。誤魔化せないか。などと考えてはダメ。多くの仕事は自分ひとりで完結するものではなく、同僚や、関係企業と関連している。自分で何とかしようとするあまり、逆に適切な対応が遅れてしまうこともある。
- 情報発信と謝罪
まずはミスや失敗の「影響範囲」を見定めることが大事。その失敗はどこまで影響するのか。「誰」に報告することで、ミスや失敗についての、影響範囲全体をカバーできるのかを把握したい。
この際に大切なのはくどくどと「いいわけ」をしないこと。「何が起きたのか」と「謝罪」まずはこれだけで十分。
- 対応策の検討と実行
「自分が」ではなく、あくまでも組織として対応すること。自分でやるにしても、事前に周囲に共有することが必要。無関係ではないけれど、感情的にならない第三者の冷静な視点が重要となってくる。
- 再発防止
ミスや失敗への当座の手当てが出来たところで、はじめて「再発防止」について考える。ここで踏まえておきたいのは「次から気を付ける」「責任転嫁」「教育への依存」「気合に頼る」「建前やスローガン」といった精神論的な対策に陥らないこと。
「同じミスをしようとしてももうできないような仕組みを作る」ことこそが、真の再発防止策となるのだ。
ミスや失敗がどうして成長につながるのか
よく言われる話だが、成功には理由がないが、失敗には理由がある。なんとなくうまくいくことはあっても、なんとなく失敗することはない。失敗には多くの場合明確な理由が存在する。故に、ビジネスの世界では成功事例よりも、失敗の分析にこそ意義がある。「こうすればうまくいかない」が蓄積されることに意味がある。と筆者は説く。
どうしてミスや失敗をもとに成長できるのか。その要因は以下の三点。
- 不十分な仕事のやり方をアップデートできる
- 観察力、分析力が上がる
- 計画力、学習力、伝達力が高まる
また、ミスや失敗の副次的効果として、以下の三点も挙げられている。
- ミスが人間関係を繋ぐ
- 他人のミスや失敗に寛容になれる
- チームの団結力
ミスや失敗の原因は?
どうして人間はミスや失敗を繰り返してしまうのか。その原因として、本書では以下の五点が挙げられている。
- 計画不良
- 伝達不良
- 学習不足
- 注意不足
- 自然
このうち、4の注意不良は「うっかり」系のミスで、これらについては「うっかり」そのものをなくすことは難しいので、「うっかり」していても回る仕組みこそが肝要。そして5の自然は、自然災害などの外的要因を指す。これについては不可抗力であり、対策のしようがない部分も大きい。
したがって、本書では1~3の、「計画」と「伝達」の不良を改善し、「学習」の不足を解消することが、ミスや失敗への対策になるとしている。
「計画の質」をいかに高めるか
「計画」がうまく立てられない要因は以下の二つ。
- 計画余裕不足
- 人材能力不足
前者については、時間に対する余裕、作業に対する余裕、行動に関する余裕を、しっかり予期して事に対すること。
もちろん多くの仕事は時間的余裕がないことが多い。その場合は、遅れてでも完成度を優先した方が良い場合もあるのでケースバーケースとなる。
後者については、事に当たる人材(自分を含め)の力量の把握が重要となってくる。
「伝達」の質を上げるには?
多くのミスや失敗は、「伝達」がスムーズに行われていないことから発生する。では、「伝達」を円滑に行うにはどうすればよいのだろうか。ポイントは以下の六点。
- メールが多すぎる
多くの方が実感していると思うが、日々届けられる業務メールの数は本当に多い。重要なメールが埋もれてしまい、大事な案件への対応を失念してしまう事態は、誰にでも覚えがあるのではないだろうか。筆者は、本当に重要な案件については、メールを別の形で記録おくなど、手元に残す工夫が必要であるとしている。
- 「指示があいまい」を防ぐ
「締め切りは今日中です」のような、具体的な時間が指定されていなあいまいな指示はミスや失敗につながりやすい。わかってくれるだろう。通じるだろう。的な、暗黙の了解を前提に事を進めるのはリスクが高い。
- 「了解しました!」では不十分
指示を受けた側の問題として「了解しました!」と返信するだけでは不十分である。具体的に指示の内容を復唱した方が、当人の認識も深まるし、何よりも指示を出した側の安心にもつながる。
- 「あいまい指示」には具体的な返事で切り返す
「ふわっと」したあいまいな指示を受けた際には、聞き返すのもひとつの手だ。ただ、より効果的な手段として、自分で案件を具体化して返信することで、自分に有利な形で、決着させるテクニックもある。
- 重要なことがメールに書かれていない
「詳細はお目にかかってから」とか、「概要は資料に(しかも紙資料)」といった具合に、大切なことがメールに書かれていないパターン。こういう仕事相手は結構多い(特に偉い人ほど)。
相手があることなので如何ともしがたい側面もあるが、自分がする側であれば気を付けておきたいもの。
- メールの送信ミスは即対応
件名間違いや、添付ファイルが添付されていない、送信相手を間違えるなど、メールのミスは総じて「うっかり」系のミスである。「うっかり」は撲滅できないので、ミスに気づいたら即座の対応が必要。
そのためには、送信メールをBCCで自分にも送っておく、もしくは送信ボックス内の自分のメールを読み返す習慣をつけるなど、ミスがあったとしても、早めに気付ける仕組みを作っておくことが重要となってくる。
「学習」不足にどう対策するか
「計画」のミスでも、「伝達」のミスでもない。当人的にいちばん辛いと感じるのが「わからない」「知らない」といった、「学習」不足によるミスかもしれない。
本書では「学習」不足の要因として以下の要素を挙げている。
- 学習機会欠如
学習するチャンスがたまたまなかった。当人の努力や意欲とは無関係な、どちらかというアンラッキーに属するタイプの課題。対策は難しいが、同じタイプのミスを頻発するようであれば、傾向から、不足している「学習」内容を把握することは可能。
- 学習内容忘却
「学習」していることなのに失念してしまっている。もしくはその重要さに気づけていないケース。学習の刷り込み不足。定期的に思い出せる仕組み、思い出せなくても自然に問題をクリアできる仕組みが必要。
- 応用力不足
応用力とは「ルールや考え方を身につけたあとで、新しい課題に対して新しい答えを出せる力」。ただ、応用力は練習では身につかず、これはひたすら実践の場を持つしかない。「失敗を恐れずに」思い切って試してみることも時には必要となってくる。
- 学習意欲欠如
学ぶ意欲がない。これはなかなかに根の深い問題で、本書では本人の能力よりも、環境的な要因が大きいとしている。筆者は「よい先生」と巡り合うことが、その対策であるとしているが、これはかなり難しそう……。
まとめ
以上、飯野謙次の『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』について、ざっくりご紹介してみた。本書の巻末には「ミスや失敗をしても評価につなげるための10のマインド」が収録されているので、最後にこちらを引用させていただこう。
本文中では、あまり説かれてこなかったメンタル部分のケア項目となっている。
- 「失敗はあるもの」と考える
- 「しておしまい」では終わらせない
- ミスや失敗の原因を「うっかり」に求めない
- 他人の仕組を何も考えずにコピーしない
- 「まだ気づいてないだけ」と考える
- 失敗・ミス対策に、コストをかけすぎない
- 繰り返してもいい失敗もある
- 「ベスト」についての考え方を変える
- ミスに「慣れる」
- ミスや失敗と適度な距離感を保つ
個人的に特に意義深く感じたのは9の「ミスに「慣れる」」。そして10の「ミスや失敗と適度な距離感を保つ」だ。
ミスは起こって当たり前。失敗で体験したマイナスの振れ幅が、ダメージの許容範囲を広げてくれる。ミスや失敗は人を落ち込ませるし、繰り返すことでメンタルにもダメージを与えていく。そんな自分に対して、「ストレスを感じている自分を高みから見る」ことで客観視し、「嫌な気分」から距離を置くことの重要さが説かれている。
改めて繰り返すが、仕事にミスや失敗はつきものである。日常的に起こる、ミスや失敗にどう対峙するかは、社会人として、そして人生の質に影響してくる。適切な対応を施すことで少しでも、ミスや失敗のマイナスを、プラス方向に転じていきたいものである。
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