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2021年に読んで面白かった新書・一般書10選(歴史編)

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今週のお題「買ってよかった2021」にも便乗。

恒例の〇〇年に読んで面白かったシリーズ、今回は歴史系だけでエントリを1つ作ってみることにした。

2021年に読んで面白かった新書・一般書10選(歴史編)

古代~中世編

まずは日本史における古代~中世あたりの区分から。最近はこの時代の本で面白そうな作品が次々と出てくるので、読む方がなかなか追いつかない。嬉しい悲鳴状態である。

荘園(伊藤俊一)

良書好日の2021年11月の記事によると、4刷4万部のスマッシュヒットとなっている本書。日本史を習えばだれでも学ぶことになる荘園。ただその在り方は時代時代によって大きく変化しており、簡単に説明することは難しい。

荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書)

本書では古代から、中世、そして室町後期の終焉期まで、荘園の歴史を丁寧に追いかけていく。墾田永年私財法や、田堵、守護と地頭など、懐かしの日本史用語に久しぶりにお目にかかれるのも嬉しい。

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刀伊の入寇(関幸彦)

元寇に先立つこと200年前。平安時代の日本が、刀伊と呼ばれる異民族の侵攻を受けた事件の顛末を描いた一冊。刀伊は、女真系のツーグース系民族。刀伊の入寇以前には、隣国新羅の脅威があり、古代の日本は近隣諸国との軍事的緊張関係が継続していたのである。

刀伊の入寇 平安時代、最大の対外危機 (中公新書)

「刀伊」の侵攻を受けて、王朝時代の軍制はどう変わっていったのか。結果として、この事件が、地方の軍事貴族の登場を招き、後の武家政権誕生へと繋がっていく展開も面白い。

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室町は今日もハードボイルド(清水克行)

サブタイトルの「日本中世のアナーキーな世界」が、本書の内容をよく表している。メンツを潰されたら即座に反撃。皆殺しもいとわない。誰も助けてくれないから、自分でなんとかするしかない。凄惨な中世の倫理観について知ることが出来る歴史エッセイ集。

室町は今日もハードボイルド―日本中世のアナーキーな世界―

冒頭のエピソード「悪口のはなし」がまず面白い。掴みとしては十分。「おまえのカアちゃん、でべそ」、これは昔はよく言われた悪口だが、中世の時代にも同様の罵倒句があったようだ。しかしよく考えてみると、なぜ他人の母親の下腹部の状態を他人が把握しているのか。深読みしてみると、ちょっと怖い。

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江戸時代編

続いて近世。江戸時代編。こちらでは四冊をセレクト。いずれも良書揃い。

壱人両名(尾脇秀和)

年間ベストを挙げるとするなら本書かな。

タイトルは壱人両名(いちにんりょうめい)と読む。読んで字のごとく、一人の人間が二つの名前を持つ行為を指す。江戸時代には、同一人物でありながら二つの名前を使いこなし、武士と農民、農民と商人、武士と町人と、身分の垣根すらも超えて活動していた人々が数多く存在していたのである。

壱人両名 江戸日本の知られざる二重身分 NHKブックス

士農工商という言葉が日本史の教科書から消えて、十年以上が経過している。現代人が思い描く以上に、江戸時代の身分制度は固定されておらず、流動性の高いものだった。本書のような研究の積み重ねもあって、歴史認識は改められていくのだなと強く感じた次第。

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幕末単身赴任 下級武士の食日記(青木直己)

紀州和歌山藩の下級藩士(25石取り)、酒井伴四郎が、江戸での単身赴任時代に残した日記をもとに書かれた一冊。参勤交代制度のため、江戸には単身住まいの男性が多く、そのため飲食店が異常に充実していたのだとか。豊かな江戸の「食」について知ることが出来る作品。わくわくしながら読んだ。

幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版 (ちくま文庫)

血で血を洗う幕末の時代でも酒井伴四郎のように、日々の生活を楽しく過ごしていた人物がいたことは、なんとも読んでいて微笑ましく感じた。とはいえ、なまじ詳細な日記を残したばかりに、150年も経ってから若き日の遊興三昧の生活を暴かれてしまうのは、ちょっと可哀そうな気もする。

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勘定奉行の江戸時代(藤田覚)

経済、司法、農政に至るまで、取り扱う業務の専門性が高すぎて、そんじょそこらの旗本では務めることが出来なかったのが勘定奉行である。遠山景普、景元父子、荻原重秀、幕末の川路聖謨に至るまで、歴代の能吏たちを紹介していく一冊。

勘定奉行の江戸時代 (ちくま新書)

江戸幕府の財政が、貨幣改鋳を繰り返し(基本的に良貨を悪貨に切り替えている)、次第に取り返しのつかないところまで追い詰められていく歴史的流れがよくわかる。財政面から見た江戸幕府史としても楽しく読めた。

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椿井文書(馬部隆弘)

江戸時代の国学者、椿井政孝が遺した、膨大な偽史料「椿井文書」の全貌に迫る。依頼者のニーズに応え、古文書や絵図を捏造、量産。史実と史実の隙間を、巧妙に埋めていくテクニックに唸らされる。現代の地方史の世界では、すっかり「史実」扱いされていて問題化している現状には驚いた。

椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書)

偽書を偽書と証明することはとても手間のかかることだ。多くの歴史家は、それがあまりに不毛な仕事なので、荒唐無稽な「トンデモ」本に触れようとしない。ただそれを怠ると、偽書はひとり歩きして、いつの間にか正史のふりをするようになる。「トンデモ」系の歴史本を、放置せず、きちんとした批判の向けていくことの大切さを、本書で改めて認識した。

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その他

分類が難しかったものはこちらで紹介したい。中国関連の書籍二冊と、民俗ネタの本が一冊である。

土葬の村(高橋繁行)

日本の火葬率は99%を超えるそうで、世界でも有数のレベルなのだとか。本書では、現代の日本でごくごく僅かに残った土葬習慣を残した地域を紹介していく。死後硬直した遺体を座棺に納める苦労。埋め墓とお参り墓の両墓制。四十九日が過ぎたら、墓を掘り返す「お棺割り」の風習。などなど、失われゆく葬送儀礼の数々に衝撃を受ける。

土葬の村 (講談社現代新書)

後半では、土葬だけでなく、沖縄地方での風葬習慣、1960年代あたりまでは日本各地で見られた野焼き葬など、葬送儀礼の多様さについても言及されている。また、最終章の「奇妙な弔いの作法」で紹介される、エピソードの数々はとにかく圧巻。

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太平天国(菊池秀明)

五斗米道、黄巾の乱、紅巾の乱、白蓮教徒の乱。中国の歴史は宗教反乱の歴史とも言える。歴代王朝の終焉には、多くの場合大規模な宗教反乱が関係している。本書は、清末に起きた太平天国の乱の全貌を取り扱っている。これを読むと、現在の中国政府がどうして凄惨な宗教弾圧を繰り返すのか、わかる気がする。

太平天国 皇帝なき中国の挫折 (岩波新書)

弱者への不寛容が太平天国の敗因であったと分析する筆者の目線は、現在の中国政府へも向けられている。「社会的弱者の抵抗が暴力であったとき、その社会のあり方こそが問題なのである」とする指摘は重い。

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幸福な監視社会・中国(梶谷懐・高口康太)

あっという間にIT分野で日本を追い抜いた感が強い中国。この国ではとにかく新しい技術の実装が早い。法的整備や倫理面のケアは後からついてくる。まずはやってみて、不味いことがあったら後から規制する。検証作業をいつまでも続け規制でがんじがらめ、とかく実装が遅れ気味な日本とは対照的だ。

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

本書は単なる中国批判に終わらない。「幸福な監視社会」は日本にとっても、もはや無縁なものではなくなりつつある。とする後半の展開も面白かった。一般人の理解を超えて進化していくテクノロジーの発展にどう向き合うべきなのか。考えてみたい方には必読の一冊だと思われる。

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おわりに

以上、2021年に読んで面白かった新書・一般書10選の「歴史編」をお届けした。続いて、一般書編を書くつもりだけど、これは年が明けてからになるかな。

ともあれ、今年一年間、しょうもない零細ブログをご覧いただきありがとうございました。Twitterもやってるので、良かったらフォローしてみてください(だいたいフォロバするよ)。

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