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『コロナ後の世界』 パンデミックで人類の未来はどう変わるのか?

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世界の知性6人が語る「コロナ後」

2020年刊行。筆者の大野和基(おおのかずもと)は1955年生まれのジャーナリスト。本書『コロナ後の世界』は、大野和基がコロナ禍を受けて、ジャレド・ダイアモンド、ポール・グルーグマン、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイの六名にネットインタビューを実施。その内容をまとめたものである。

内容はこんな感じ

未曽有のコロナ禍で人類の未来はどう変わるのか。日本で名を知られた六人がそれぞれの視点から読み解く「コロナ後」の世界とは?

インタビューの時期は、2020年の5月~6月にかけて。その後、状況もかなり変わっているので、既に情報として古くなっている部分もある。しかし各界の識者がコロナ後の世界をどう捉えて知ることが出来るという側面では、有意義な一冊ではないかと考える。

以下、それぞれのインタビュー記事を簡単にご紹介しよう。

独裁国家はパンデミックに強いのか

話者はジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)。1937年生まれのアメリカ人学者。『銃・病原菌・鉄』で一躍、その名を知られるようになった。

この章では、パンデミックと国家体制について語られている。いちはやく新型コロナウイルスの影響から脱した中国について、専制国家ならではの隠蔽体質を批判している。ジャレド・ダイアモンドは、中国に対して「一度も民主化したことが無いからダメ」と終始批判的である。

日本人については、「個人の自由が制約されることへの反発が少ない」との指摘。欧米のリアクションを考えると納得感はある。

AIで人類はレジリエントになれる

話者はマックス・テグマーク(Max Tegmar)。1967年生まれ。スウェーデン出身の物理学者。理論物理学者。

この章ではコロナ後のAI(人工知能)とのかかわり方について語られる。新型コロナウイルスの蔓延は、接触追跡など、ビッグデータの重要さを浮き彫りにした。これからはAIによる機械学習により、人類のヘルスケアが飛躍的に進歩するとポール・グルーグマンは説く。

AIについては、人類の知能を超えた存在となるAGI(Artificial General Intelligence)が、近い将来登場するであろうと予見している。しかし、AGIの危機管理は重要で、人類は安全工学をきちんと検証し、きちんと備えることが重要であるとしている。

ロックダウンで生まれた新しい生き方

話者はリンダ・グラットン(Lynda Gratton)。1955年生まれのイギリス人組織論学者。スコット・アンドリューとの共著である『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』は日本でもベストセラーになった。

この章ではコロナ後の働き方について語られている。コロナ禍でのデジタルスキルの向上、テレワークの強制普及が、日本の働き方改革を推進する。

長寿高齢化社会では人生がマルチステージ化する。リンダ・グラットンは三つの無形資産を築くべきであると説く。

・生産性資産
価値ある高度なスキル
キャリアにプラスとなる人間関係
自分自身の評判
社会から求められ続ける人材に

・活力資産
肉体、精神的な健康
家族、友人の存在

・変身資産
変化していける力
違う年代、性別、仕事、国籍とかかわること
将来こうなりたいとするロールモデル

このあたりは『LIFE SHIFT』を読まれた方なら、ご存じの部分であろう。『LIFE SHIFT』は良書なので、これからの働き方について考えてみたい方は一読をおススメする。

認知バイアスが感染症対策を遅らせた

話者はスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)。1954年生まれ。カナダ出身の実験心理学者、認知心理学者。

この章で問われるのは人間の認知についてである。タイトルにある「認知バイアス」とは「思い込みから、非合理的な判断を下してしまう」心理現象を指す。

ジャーナリズムは最悪のことばかりとりあげるが、良くなっていることを報じることは少ない。とかく世の中は悪くなっているものと考えがちだが、人類は進歩しており、社会はゆっくりだが確実に良くなってきている。

人間はどうしても認知バイアスの影響を受けてしまう。データで現在の状況を、合理的に正確に判断しよう。数値を読み解く力が必要であるとスティーブン・ピンカーは説く。このあたりは、ハンス・ロスリングの『FACTFULNESS』での主張と重なるものがある。

新型コロナで強力になったGAFA

話者はスコット・ギャロウェイ(Scott Galloway)。1964年生まれの連続起業家。ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、2019年のビジネス書大賞読者賞を受賞している。

この章で語られるのは米国の巨大IT企業、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)についてである。

GAFAによって市場が占有されると、イノベーションは起きにくくなってくる。スコット・ギャロウェイは、コロナ禍でGAFAの肥大化、強大化が促進されると予見する。

これからのIT起業については、「テクノロジーとイノベーションをヘルスケアに投資し応用するひとたちが今後成功するのでは」と語っており、先ほどのマックス・テグマークの考えとも近い。

景気回復はスウッシュ型になる

話者はポール・グルーグマン(Paul Robin Krugman)。1953年生まれのアメリカ人経済学者。2008年度のノーベル経済学賞を受賞している。

最終章は、コロナ後の世界経済についてである。世界的な株高が続いているが、本当のリセッション(景気後退)はコロナ後にやってくるとポール・グルーグマンは説く。先進国や、都市部の感染は次第に落ち着いてくるかもしれないが、新興国や、地方での感染拡大は遅れてやって来る。パンデミック後の経済はスウッシュ型(ナイキのロゴのような形)としている。

日本の消費税増税については一貫して批判的な立場を取っており、増税はすればするほど、消費を落ち込ませるばかりであると手厳しい。

類書を何冊か読んでみるつもり

以上、大野和基編の『コロナ後の世界』について、ざっくりと概要をご紹介させていただいた。バイデン政権発足前ということもあり、現在読むともどかしい部分もあるので、もうすこし早く読んでおくべきであったと反省。

昨今「コロナ後」を予想した書籍はたくさん発売されているので、あと何冊か読んでみるつもり。類書を何冊か読めば傾向はつかめてくるはずである。

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